インド国内をバイクで巡る旅を続ける三井昌志さん。インド屈指の悪路をホコリまみれになりながら走破し、たどり着いた安宿のベッドに横たわった旅写真家の胸に去来した想いとは。メルマガ『素顔のアジア (たびそら・写真編)』では、その時の写真とともに、40代を迎えた自身の決意表明が綴られています。
働く女たち
オリッサ州を抜けてチャッティスガル州に入ると、働く女性の姿が目立つようになった。ガソリンスタンドや携帯電話ショップに若い女性店員がいるのが当たり前になり、女性警官の姿も珍しくなくなった。オリッサ州ではあまり見なかったバイクに乗る女性も一気に増えた。
インド女性の社会進出の度合いは、地域によって大きな差がある。オリッサ州は比較的保守的だが、お隣のチャッティスガル州の女性たちは意欲的に外に出ているようだ。
カルチャ村で小学校の先生をしているモニカは、「女の子には教育などいらない」という旧弊な考え方が、最近になってようやく変わってきたと実感している。彼女が勤める学校でも、長らく男子生徒の方が女子よりも数が多い(つまり女の子の何割かは小学校に通っていない)状態が続いていたのだが、今年から男女比がほぼ同じになったという。「男女平等」の実現にはまだほど遠いが、インド社会も少しずつ変わりつつあるのだ。
学校給食は女子の就学率を高める切り札のひとつだ。昼休みに無料で給食を出すようにしてから、それを目当てに登校してくる子供(特に女の子)が増えたという。最初は食べ物につられて通いだした子供でも、毎日学校へ通ううちに勉強が楽しくなってくる。学ぶ意欲が芽生えてくる。しかも給食によって貧しい家の子供たちの栄養状態も改善されるというから、まさに一石二鳥である。
ちなみに給食の献立はご飯と豆スープとカレー味のゆで卵。もちろん豪華なものではないが、ちゃんと栄養にも配慮したメニューだった。
モニカは頭の回転がとても速い、好奇心旺盛な女性だった。流暢に英語を話し、日本の経済や文化について僕にいろいろと質問してきた。きっと優秀な先生なのだろう。
「でも教師をずっと続けるつもりはないんです」とモニカは言った。「給料が安すぎるから。月給1万5000ルピー(3万円)じゃ暮らしていくのは難しいわ。今は他の仕事を探しているところ。チャッティスガル州にはプライベートカンパニーは少なくて、大きな工場や会社はだいたいどこも国営なんです。鉱山とか製鉄所とか、そういうところね。もし国営企業に勤められれば、月給は4万から6万ルピーになります。でもそれには厳しい試験を通らなければいけないの。私は3年前から試験を受けているんですが、まだ合格できないんです」
国営企業に採用されるには、厳しい試験に合格する必要がある。それは逆に言えば、試験にさえ通れば、女性でも男性と同じ条件で働くことができるということだ。優秀な女性たちがこぞって公務員や国営企業を目指す理由は、そこにあるようだ。