アップルが2021年の9月に電気自動車「アップルカー」を発売するという報道が出ています。一部報道では2024年とも言われているのですが、この2021年の方が私は信憑性が高いのではないかと思っています。その理由と、アップルの株がこれから上がるのかどうか、そして関連銘柄で注目すべき銘柄があるのかという点について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
アメリカの会社だが最新情報は台湾にある!?
アップル初の電気自動車「Apple Car」が2021年に発売されるとの報道が出ています。
※参考:ASCII.jp:アップル初の電気自動車「Apple Car」2021年発売か(2020年12月23日配信)
他のアメリカ系のメディアでは大体「2024年」ということになっているのですが、上記の記事にあります通り台湾メディアの経済日報が報じたところによると、「2021年9月」という風に言われています。
2021年と2024年という2つの憶測がありますが、私は2021年の信憑性の方が高いのではないかと思っています。
それはニュースの出所にあります。
アップルというとアメリカの会社ですが、それを台湾のメディアが最新情報として「2021年」と報道するのは、見る人によっては違和感を感じるかもしれません。しかし、この台湾というところこそが信憑性が高い理由と私は考えます。
それはなぜか。その理由は、アップルという会社の形態を知っていればよくわかると思います。アップルというと「ファブレス」といって、工場を持たずに製品を製造するメーカーとして有名です。
実は皆さんが使っているiPhoneは、アップルの製品ではあるのですが、アップル自体が作っているわけではありません。アップルは設計とか開発だけに注力していて、実際の製造は外注して行なっています。
これをやるからこそ、より製品の精度というところで集中することができますし、またこの製造を新興国で行うことによって、製造コストを下げて最終的に自分は高い利益率をあげることができるわけです。
だからこそ今、アップルは世界一の時価総額を誇る会社になったと言えます(※編注:原稿執筆時点2020年12月27日)。
さて、話を戻しますと、このアップルが製造を委託している会社というのは、「フォックスコン鴻海」という会社になります。この名前を聞いて見覚えのある方もいるかも知れません。何年か前に、倒産寸前だったと言われるシャープを買収した会社です。
そして、この鴻海の本拠地こそが「台湾」になります。
さらに言えばこのフォックスコン、最近「裕隆汽車」という台湾の自動車会社と組んで、「鴻海先進」という電気自動車を作る会社を立ち上げました。
これは鴻海自身が自動車を作るとも言っているのですが、この鴻海とアップルという関係を考えると、アップルカーの製造もこの鴻海先進が担うのではないかという憶測が出ています。
そして、その流れで起きているのが台湾の自動車会社、鴻海先進に連なると考えられる自動車会社、あるいは自動車の部品会社に発注が急増しているということなんです。
この下請け先の会社では今、ラインがフル稼働していて、アップルからの受注が止まないという風に言われています。
「最新の情報を掴めるのはまさに台湾メディア」ということになるので、先ほどの2021年9月発売という台湾メディアの報道の信憑性が高いのではないかという風に考えています。
Next: 群雄割拠の自動車業界、アップルに勝算はあるか?
「iPhone」を中心に広がるアップル経済圏
私自身もアップルユーザーですから、アップルカーが発売されることには非常に高い期待を持っています。
では、アップルがすでに色々な強いところがある自動車業界の中で、果たして勝算があるのかどうかということについて見ていきたいと思います。
ただ電気自動車を開発したからといって、そう簡単に売れるものではないという風に思います。一方で、アップルの電気自動車は、日本でいうと半分以上のシェアを誇る「iPhone」の強みというのを最大限に活かすことができるツールでもあるという風に考えています。
アップルというと、iPhoneを中心に次々に周辺機器を出してきました。それがタブレットのiPadだったり、時計のApple Watchだったり、さらには最近流行っているのがイヤホンのAirPodsです。
これらの何が素晴らしいかというと、iPhoneを中心に全部が繋がっていること。このiPhoneとタブレットというのはほぼ同じようなアプリ、同じ認証情報といったところを常に連携しているのでシームレスに行うことができますし、またApple Watchだったらこれらの通知がいつでも受け取れるとこういうことになります。
特にこのApple Watch、私も最近になって買ったばかりなのですが、すごく良いなと思っています。これがあれば、もはやiPhoneがいらないぐらいに必要な情報、例えばラインで簡単なやりとりをしたい時は音声でメッセージを入力すればすぐ返せるという具合に、非常に便利に使わせてもらっています。
AirPodsも箱から取り出したらすぐにiPhoneに繋がるようになっていますし、ここでSiriとかも使えて、まさにiPhone経済圏の囲い込みを図っています。
私自身もこれにまんまと嵌められているわけなんですけれども、同じようなことを「アップルカー」でできるという風に考えられます。
アップルカーの無限の可能性
想像できるのは、まずiPhoneが車の「鍵」になるということです。
皆さんも出歩く時は携帯電話は必須だと思うので、iPhoneを持っていれば車の鍵を持ち歩く必要もありませんし、マップで行き先を先に検索しておけば、それがそのままカーナビに映って案内にしてくれるということにもなると思います。
また電気自動車ということですからバッテリー残量なんかも見ないといけないと思うのですが、それもiPhoneですぐに確認できると思いますし、最終的に自動運転ということになれば、もう行き先とかもすべてがiPhoneで操作できるということになります。
そう考えると、このアップルカーの可能性というのは無限大に広がるという風に考えています。
Next: アップルの得意技は「市場を奪う」こと。参入のハードルをどう越える?
アップルの得意技は「市場を奪う」こと
もっと言うならばアップルはこの既存のカテゴリーの商品を、より使いやすくより便利にすることによって市場をどんどん奪ってきた会社ということができると思います。
例えば、かつて音楽を持ち歩こうと思ったらソニーのウォークマンが一世を風靡したのですが、これに対してiPodを発売することによって、今まで持ち歩こうと思ったらMDやカセットテープを持ち歩かなければいけなかったのですが、mp3にすることでその必要をなくし、すべてが1台に入っているという状況を作り上げました。これによって高いシェアを奪ってきました。
また、日本ではガラパゴス携帯の時代から「iモード」などを使ってインターネットをすることができたのですけれども、それをスマートフォンにすることによって、パソコンと同じような感覚で、あるいはアプリというものによってパソコンよりも使いやすくすることができて、これもまた世界を席巻しました。
さらにはBluetoothイヤホンもこの形で充電能力を引き上げたり、扱いやすくしたことによって、今やBluetoothイヤホンの市場がどんどん活性化しているという状況にあります。
この流れの中に自動車の新しい製品として「アップルカー」が出てきても、私は全然おかしくないのではないかと思います。
自動車業界参入のハードルは高い
ただ、そう簡単ではないという側面もあります。何故なら車というのは、これらの商品と比べても断然に難しいということが挙げられます。
何より人の命を預かるものですから、少しでも間違いがあってはいけないわけです。既存の自動車会社というのも安全技術に関しては、これまで長い時間をかけて培ってきたものがあります。また電気自動車はエンジンで動く自動車に比べると部品点数が3分の1になって、よりシンプルに作れるとも言われるのですが、そうは言っても人間に危険が及ばないように丁寧に作る、あるいは部品同士の擦り合わせを正確にやっていくということを考えると、そこまで簡単ではないということは言っておきたいと思います。
アップルが作るにしても軽い気持ちで出してしまったら、それこそ人命を奪うということになってしまいかねませんから、そこにはやはり高いハードルが存在すると思います。
また、作るにしてもたくさん作らないといけません。部品点数が3分の1になったからといっても、たくさんの部品が必要になることは間違いありませんから、それらのサプライチェーンを作り上げていかなければなりません。それを台湾で作っているということなんですけれども、世界中で作ろうと思ったらたくさんの工場が必要ですし、またそこで働く従業員なんかも必要になってきます。
そんなことから治験的に最初は小さく始めるならともかく、これを世界中で売ろうと思ったら、やはり相当な時間と労力が必要になっていきます。
しかも、作ったとしても今度は販売しないといけません。通常、自動車を買う場合はディーラーに行って販売店で買うということになると思います。iPhoneであれば家電量販店でも売れますし、ネットで買っても特に問題はなかったかと思いますが、車だと車検があったり、点検があったりと、そう簡単にはいかない部分も多いと思います。
「製造と販売」というこれらのサプライチェーンを世界中で作り上げていくのは、決して容易ではないという風に考えます。
Next: アップルが自動車会社買収へ動く?業界の「台風の目」になる日
アップルが自動車会社買収へ動く?
これを実現するために実はもっとも簡単な方法は、既存の自動車会社を買収してしまうことです。
自動車会社だったらすでにその製造の為のサプライチェーンや工場というのを持っていますから、それをそのまま利用することができれば、ディーラーも含めて一気にサプライチェーンを流すことができます。
したがって可能性は決して高くないと思いますが、アップルが何らか既存の自動車会社を買収するということはあるかも知れません。
最もアップルという会社はこういった買収によって、拡大してきたということはあまりなかったので、この自動車についてもするかどうかということは決して断言できません。ただ、1つの選択肢としては十分にあり得ると思います。
ここで注目すべきなのが、日産自動車だと考えています。ゴーン氏がいなくなって、業績は今も大幅な赤字を計上してしまっています。株価は数年前からすると、すでに3分の1ほどに割安になっています。
日産自動車<7201> 週足(SBI証券提供)
時価総額も2.37兆円というところですから、アップルが実際に買おうと思ったらわけもないということになります。
さらに深く考えてみると、先ほど紹介したこの鴻海先進と合弁会社を作った「裕隆汽車」というのは、実は昔から日産の仲が良かった所もあって、台湾では日産の車を売っていたりします。
その経緯から、その鴻海先進が日産と組んでもおかしくないという風に考えられます(※編注:原稿執筆時点2020年12月27日。年明けの報道ではアップルとヒュンダイが提携交渉に入ったとの情報も見られます)。
折しもこの日産の株式を40%以上保有しているルノーなんですけれども、ルノー自体経営が苦しくなって、もはや日産の株をいつ手放すかはわからないという状況にもなっています。
この引受先としてアップルやフォックスコンということが、将来考えられなくもないのではないかという風に考えています。
やはり買収ということになると買われる側の期待というところも高まりますから、そうなると株価が上がるということも考えられます。決して確度の高い話ではないと思いますので、それは承知の上でお聞きいただければと思います。
いずれにしてもこの2021年バイデン政権が誕生して、電気自動車への各国の流れが強まる中で、自動車業界で大きな動きがあるということは間違いないと思います。
その流れの中にアップルや日産自動車というところが入ってくれば、また業界が面白いことなるのではないかと思います。
業界で今ぶっちぎっているテスラの動きなんかも含めて、今後も目が離せない状況となっております。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年12月27日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。