コロナで職を失い、家を失う人々の多くが「食料難民」となりかねない一方で、金融緩和マネーによって食料価格が上昇しやすい状況にあります。ここからはさらにきめ細かいコロナ支援が必要です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年1月8日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
金融緩和長期化で新たなターゲット
一向に収束が見えない新型コロナの感染拡大の中、主要国の政策対応は一段と支援強化に向かっています。
米国では昨年春以降、財政支出は3兆ドルを優に超える追加支援がなされ、FRBも日本型のゼロ金利付き量的緩和を大規模に進めています。このため、実体経済と離れ、米国株は史上最高値を更新し、日本の株価もバブル崩壊後の最高値を付けています。
日経平均株価 月足(SBI証券提供)
NYダウ 月足(SBI証券提供)
この政策支援、まだまだ続きそうで、日銀、FRBともに長期戦に備えています。これに市場も安心して株や債券を買い上げてきましたが、少し変化が見られます。
コロナ相場に異変
まず、債券、株に高値警戒感が見られるようになりました。主要国の国債利回りはこのところじり高となり、価格が軟調になっています。ドイツのブンズも金利のマイナス幅が小さくなり、米国10年国債利回りも1%台に乗せてきました。
債券利回りの上昇は価格の下落になり、さすがに異常な高値を付けた国債相場にも調整が見られるようになりました。
日米株価は高値を更新していますが、コロナの感染拡大、米国での政治イベントの時期とも重なって、相場がやや不安定になりました。
金融政策支援は期待できるものの、株価がバブル的な高値圏にあるとの認識が見られるようになりました。その分、他の投資対象を模索し始めたようです。
Next: コロナデフレと投資インフレのせめぎあい。その結果は「食料不足」?
他のリスク商品を模索
国債の相場暴騰、金利低下を見て、世界の投資マネーは金や株に集中しましたが、金相場が最初に調整をみました。昨年8月にはオンス2000ドルを超えましたが、11月末には1760ドル台まで調整しました。このころは株買い一色となりました。
しかし、株にも高値警戒感が出るに至って、新しい投資対象に目が向くようになりました。
その1つがビットコインなどで、市場規模が小さいこともあって相場は3万ドルを大きく超えて暴騰しました。
この市場だけでは吸収できない投資マネーは、コモディティにも流れ、原油相場は北海ブレントに続いてWTI先物も50ドルを超えて上昇しています。金価格も1,700ドル台まで下げたところからまた上昇に転じ、再び1,900ドル台を付けています。
その他のコモディティ価格も上昇するものが増え、価格低下の定番とまで言われた小麦まで上がっています。昨年5月の安値からは5割以上高くなっています。コーヒー相場も昨年11月の底値から2割以上上昇しています。
コロナデフレと投資インフレのせめぎあい
世界の長期金利がジワリと上昇していますが、市場にインフレ懸念が出てきたわけではありません。
債券価格がバブル的に高まったうえに、世界的な財政赤字拡大が債券売りを誘った面はあります。特にコロナで世界の経済活動がまた制約を受けるようになり、需要の減退のほうに目が向いています。
ある意味ではコロナデフレの懸念です。
しかしその一方で原油価格が上昇し、ガソリン価格が限界的にはジワリと上昇しています。日本の消費者物価では前年比でみるとエネルギー価格はマイナスですが、相場に敏感なガソリン価格は12月以降上昇ぎみとなっています。この傾向が続くと電気代、ガス代も遅れて上昇することになります。
またコーヒー相場はすでに上昇していましたが、改めてまた上昇圧力がかかっています。小麦価格の上昇は、パンやパスタなどの価格上昇に跳ね返ります。
生鮮食品の価格は天候などに左右されますが、前述のコモディティ相場は中央銀行の大規模緩和が長期化すると、さらに上昇する可能性があります。コロナデフレと金融相場インフレのせめぎあいとなっています。
少なくとも、緩和マネーは当初の資産価格高から、コモディティにシフトしつつあります。株も債券も相場の行き過ぎから警戒感が出て、他の投資対象にシフトしている状況は確認できます。
金は再び2,000ドルを伺い、原油価格も上がり、コロナで需要減退が懸念されるバルチック海運指数まで上昇しています。
これらはコスト高となって二次商品価格に転嫁され、一般物価の押し上げ要因になります。
Next: 行き過ぎた金融緩和の副作用。食料価格の上昇が困窮者に追い撃ち
食料難民を圧迫
こうしたコロナの感染拡大の影響と、これに対応する政策支援とによって、需給構造には大きな変化が生じつつあります。
需要の減少とともに、サービス面では供給も減少します。そのなかで給付金や金融緩和マネーの供給は拡大します。それらが大規模になれば、「絶対物価」が上昇するかは議論が分かれますが、少なくとも相対価格には大きな変化が出ると見られます。
その中で大きな問題となりそうなのが、コロナで職を失い、家を失う人々の多くが「食料難民」となりかねない一方で、食料価格が上昇しやすいことです。エネルギーコストの上昇や原材料となるコモディティ価格の上昇は、食料品メーカーにはいずれもコスト高となります。
しかも先進国の多くでは食料廃棄が3割から4割もあり、食糧難と食料余剰が並立しています。
コロナ支援として、日本では休業する企業に補償金が払われ、企業救済には配慮が見られますが、失業者や休業者、食料難民には支援の手が届いていません。さらに海外では多くの食料難民がいて、その一方で小麦関連の食材やコーヒーの価格が上がり、食糧支援にもコスト負担が大きくなります。
コロナデフレは大規模緩和の「免罪符」になっています。
行き過ぎた金融緩和の副作用が議論されますが、こうした食料価格の上昇にまで波及するようになると、マクロの金融緩和も検討の余地があります。
きめ細かいコロナ支援が必要なほど、資源、所得の偏在が大きくなり、支援を必要とする難民が増えています。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年1月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。