日経平均株価は崩れた。日銀が日経平均連動型のETFを購入しないことを決めたことが大きい。今後はTOPIX型のみを購入する方針だが、これが日本株にどう影響するのかを考えたい。3月末までの2週間は動きやすくなりそうだが、最終的には株価上昇に向けた調整期間ととらえておくのが良さそうだ。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)
本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2021年3月22日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
崩れた日経平均株価
日経平均株価は崩れた。日銀が日経平均連動型のETFを購入しないことを決めたことが大きい。
日経平均株価 日足(SBI証券)
これは、日銀が日経平均株価の構成要素を理由に、投資対象にふさわしくないと断じたことを意味する。つまり、今後は日本株の指標はTOPIXにすべきと日銀が宣言したことになる。
これで、日経平均株価は欠陥がある指数であることを日銀が認めたことになる。この事実は非常に大きい。
今後の日本株の指標は「TOPIX」に
日銀は今回、上場投資信託(ETF)の買い入れについて、TOPIX型のみを購入する方針とした。
黒田総裁は「買い入れを減らす考えはまったくない。今後も必要に応じて十分な買い入れを行えるよう持続性、機動性を強化した。構成銘柄が多様なTOPIXに連動するものだけを買うことが、個別銘柄に偏った影響が出ないようにする観点から重要だ。日銀の保有で株式市場の機能が損なわれていることはない」と明言した。
さらに、「12兆円の上限を維持し、必要に応じて弾力的に買い入れる」とした。
今回の日銀のETF買い入れの決定に関しては、市場では中長期的な上昇基調にある相場の流れを変えるものではないとみる向きが多いようである。むしろ、TOPIX型の購入に限ることは、値がさグロース株からバリュー株へのシフトをより鮮明にさせる側面が大きいとの見方がある。
日銀がETFについて、原則6兆円の年間買い入れめどを削除、引き続き12兆円を上限に買い入れを行うとしたことは、観測通りでサプライズではない。
むしろ、サプライズだったのは、TOPIX連動型のみを購入対象としたことである。これが伝わった直後から値が崩れたのが、日経平均への指数寄与度が全銘柄で最も大きいファーストリテイリングである。保有している日経平均型ETFが売却されるわけではないながら、同社は大引けで前日比5,910円安と大幅下落。除数27.769で計算した日経平均への下落寄与度は212円に達した。
ファーストリテイリング<9983> 日足(SBI証券提供)
ファーストリテに関しては、本来の上昇期待とは別に日銀のETF購入によるプレミアムが意識されていた。したがって、需給面で他の銘柄に比べて優位性があったが、今後はそれがなくなるだろう。
Next: 日銀ETF買い「TOPIX型のみ」を歓迎する声。日経平均に強烈な売り圧力か
日銀ETF買い「TOPIX型のみ」を歓迎する声
ただし、TOPIX型のみを買うという点については歓迎する声が多いといえる。
浮動株比率が少ないファーストリテが上昇すれば日経平均も連れ高となるなど、市場のゆがみが指摘されてきた。そのゆがみが是正されるという面ではポジティブである。また、短期筋による日経先物の投機的な売買も減るとの指摘もある。
たしかに、これまでファーストリテやソフトバンクの株価を動かし、日経平均先物を動かすような取引が横行していた。一部の指数寄与度が高い銘柄に市場が翻弄される場面が多かったことを踏まえれば、適正な購入法に変更したと言える。
日銀は株式市場をよく観察し、相場の本質を理解していることを示したとみることができるだろう。きわめて正しい判断である。
物色の流れはバリュー株主導へ
一方、これをきっかけにして、物色の流れはバリュー株主導がより鮮明になるとの見方が出ている。
直近の相場では、米長期金利の上昇を背景にしたナスダック指数のさえない動きを受け、値がさグロース株の下げが目立つ一方、経済正常化による収益回復期待からバリュー株の修正高が進んでいる。日銀のETF購入がTOPIX型に絞られることで心理的にバリュー株の優位性が高まる可能性が高い。
日銀が、現在のグロース売り、バリュー買いの相場を容認するような格好となっている。年度末を控え、配当権利取りが活発化するため、目先はTOPIX優勢の相場展開が続くことになりそうである。
TOPIX 日足(SBI証券提供)
日経平均株価に強烈な売り圧力か
これまで、日経平均株価は日銀によるETF購入でかさ上げされてきたとの指摘がある。2,000円ほど割高になっているとの見方もある。15倍から17倍程度が中心だったPERが今や23倍である。現在のPERを基準に17倍のPERを当てはめると、日経平均株価の理論値は2万2,000円にも届かない。PERを20倍に引き上げても、2万5,500円程度である。
このように考えると、日銀が日経平均連動型のETFを買わないことも考慮すれば、今後は日経平均株価に強烈な売り圧力が出る可能性がある。
したがって、投資家サイドも、今後の投資対象は日経平均株価ではなく、TOPIXにすべきである。これは短期戦略も長期戦略も同じである。そして、日経平均株価はそれらのヘッジのためのツールになるだろう。
つまり、TOPIXを買えば、日経平均でショートし、ヘッジするなどの方法である。そのうえで、日経平均株価の適正値を市場がどのあたりで考えているのかを探ることになろう。
Next: 海外投資家の動向がより重要に。売りを仕掛けに来る?
海外投資家の動向がより重要に
無論、外資系大手の動きが重要になる。彼らが、日経平均株価の先物・オプションの取引で、何をするのかを注視する。
いままでは、目先は2万9,000円と3万円のレンジだった。これが崩れるのか、さらに2万9,000円を割高と判断し、さらに日銀が買わなくなったことも考慮し、売りを仕掛けてくるのか、週明けの動きを注視したい。
目先は日経平均株価の騰落レシオがきわめて過熱している。そのため、調整しやすいともいえる。テクニカル調整が終われば、あとは企業業績の改善傾向がポイントになる。それまでは、日銀の買い支えにより、TOPIXが想定的に下げにくい状況が続くことになるだろう。
黒田総裁、過度な金利上昇に強い警戒感
一方、金利面の政策については、黒田総裁は「金利が上方に行って、金融緩和の効果が影響を受けてしまうのは絶対に避けなければならない」とし、過度な金利上昇に強い警戒感を示した。
日銀は金融政策決定会合後に公表した声明文に初めて長期金利の許容変動幅を具体的な数値で明記し、「プラスマイナス0.25%程度」とした。
同時に連続指し値オペの導入を打ち出し、行き過ぎた金利上昇は抑制に動く一方、下限を割り込む動きには寛容な態度を取り、上下非対称な対応を鮮明にした。
政策点検の「背景説明」では、「金利の大幅な変動は、経済・物価に悪影響を及ぼす可能性があるが、金利の変動が一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわず、市場の機能度にプラスに作用する」と指摘。金利変動の設備投資への影響分析について「長期金利の過去6カ月の変動域が50bpを超える場合を除けば、金融緩和が設備投資に影響を及ぼす度合いはおおむね不変」とした。
日銀内では、政策点検を前に金利上昇について「2つの側面」からの警戒感が浮上。連続指し値オペの創設につながった可能性がある。
1つは、停滞が続いていた日本の長期金利が米国の金利上昇に連動し始めたことである。日銀では、もし長期金利の許容変動幅を拡大すれば市場は金利上昇で反応するとの見方が出ており、3月期末を前に債券安・株安を招くわけにはいかないといった声が聞かれた。
もう1つは金利のボラティリティの拡大が金融緩和の効果を損ねることへの懸念である。2月末に世界的に金利が急上昇する中で、一部の日本企業は条件決定が困難とし、社債発行を見送る事態に発展。日銀では、金利水準のみならずボラティリティにも注意が必要だとの指摘が出ていた。しかし、連続指し値オペは使い方によっては過度に強力なツールとなる可能性がある。金利上昇を抑える脅しにもなり得るだろう。
一方、超長期金利に関しては、過度な低下が望ましくないという従来からの表現と変わらないため、長期金利が上昇しにくい分、超長期金利も上昇しにくくなる可能性もある。日銀でも、臨時オペや指し値オペを打つと「効果が出すぎてしまう」ことへの警戒感が根強いようである。
Next: 3月末までの2週間は大荒れも、株価上昇に向けた調整期間か
日米金利差の拡大に要警戒
今回の政策点検で日銀は国債市場の機能回復を目指した。これまで「プラスマイナス0.1%の倍程度」を許容変動幅としてきたものの、昨年6月以降は長期金利が停滞。こうした現状を打破する必要があるとの認識が日銀では強まっていったようである。
長期金利の許容変動幅の拡大観測に加え、米国の長期金利上昇により、日本の長期金利が一時0.175%まで上昇した際、日銀内でも警戒感が高まったものの、日銀は金利上昇を抑える動きには出なかった。
金利が一段と上昇するリスクから、点検結果の公表前に、買い入れオペに動けば金利水準に関する日銀の「新たな目線」となってしまう可能性があることを警戒したとみられる。
各国の金利に上昇圧力が掛かる中、金利上昇を容認できるのは米国だけとの指摘もある。日銀が打ち出した連続指し値オペは、米国の金利上昇について行かせないためのけん制効果を狙ったものではないかとの声もある。いずれにしても、日米金利差は拡大しやすくなったといえる。
また、2%の物価安定目標については、「金融緩和を粘り強く続けることで達成できる。目標がまだ実現されていない状況で、出口を議論するのはまったく時期尚早だし、適切でない」とした。これにより、日米金利差はますます拡大しやすくなる。「円安=株高」がよいと信じている日銀は、円安を狙い、株高を演出しようとしているのだろう。
しかし、円安であればよいというわけではない。このあたりの考え方が示されていないことを考えると、日銀がもっとも本音を聞かれたくない点なのだろう。
3月末までの2週間は大荒れも、株価上昇に向けた調整期間か
目先は3月期末に向けた売りが出やすいが、配当分の再投資が先物市場に入ってくる。数千億円に達するとの指摘があり、相当の下支え材料になることが確定している。この点も理解しておくとよいだろう。
これから3月末までの2週間は動きやすくなりそうである。しかし、最終的には株価上昇に向けた調整期間ととらえておくとよいだろう。
4月は株価が上げやすい季節でもある。四半期の最初の月であり、資金が入りやすくなる。警戒し過すぎると上昇相場に乗り遅れる可能性もあるだろう。
目先は騰落レシオがきわめて過熱している。調整すれば、この過熱感も払しょくされる。テクニカル調整が終われば、あとは企業業績の改善傾向がポイントになる。日本企業に関しては、発表はまだ先であり、それも内容的には強いものにはなりづらいだろう。企業経営者がコンサバティブであることが理由だが、これは仕方がない。景気敏感株である日本株が上がるには、まずは世界株式が堅調に推移することが最低条件である。
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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2021年3月22日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場や為替、原油、金ほか各市場の詳細な分析もすぐ読めます。
『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2021年3月22日号)より一部抜粋
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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。