「ヘリコプターマネー」とは、その言葉のとおり、ヘリコプターから市中に現金をバラまくかのごとく国民に直接カネを渡し、マネーサプライを大幅に増やす景気対策のことです。ベン・バーナンキ前FRB議長は、この「ヘリコプターマネー」の強い賛成論者として知られています。(『らぽーる・マガジン』)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2016年7月18日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
なぜバーナンキは日本にヘリコプターマネーをそそのかすのか?
猛烈に売られる円
「ヘリコプターマネー」の最初の提唱者はミルトン・フリードマン経済博士ですが、そのお弟子さんにあたるのがベン・バーナンキ前FRB議長です。
先日、そのバーナンキ氏が来日し、安倍総理や黒田日銀総裁と会談したことで、日本でもヘリコプターマネー政策が行われるのではとの憶測がにわかに高まり、円が猛烈に売られました。
本来、日本株売り手法を得意とするヘッジファンドも円安→株高の流れには逆らえず、迂闊に売れなくなったことで、先週の日本株価は連日高騰したわけです。
「歯止めが利かなくなる」浜田宏一内閣参与
浜田宏一内閣参与は、このヘリコプターマネー政策には反対の意を唱えています。インフレに歯止めが利かなくなるとした上で、「政府は、絶えず政治や、私欲にお金を使いたい。お金を印刷すればいつでもできるようにする制度を日本に定着させてしまうことは、将来に禍根を残す恐れがある」とし、「国債引き受けなど制度の変更を含むヘリコプターマネーには反対だ」と強調しています。
さらに、為替介入はアメリカから通貨戦争の批判を受けやすいとし、円高を解消しようとする場合、さらなる緩和政策を何らの形で行わなければならないのは確かであり、金融政策でやるのは正攻法であるとの認識を示しました。
ヘリコプターマネー政策を、この浜田先生の言葉を借りて言い換えれば「政府がやりたい政策を、日銀がお金を刷って援助する」ものということになります。
正確に言えば、今回はゼロ金利の永久国債を政府が発行し、日銀がそれを買い取ってインフラ整備などに充てるというものですが、どんな言い方をしても、「政府がやることに日銀がお金を出す」構図であることは変わりません。
どうなる日銀金融政策決定会合(7/28~29)
ポイントは、これを日銀金融政策決定会合で唱えるかどうかです。ETF買い付け枠の拡大などの追加緩和策を出すのではとの見方はありますが、もし、何も出てこなかった場合、いままで積みあがった円ロングポジションの巻き戻しは、かなりきついものになるでしょう。円高圧力が相当増すことになります。
マーケット関係者の見方はこうです。
黒田総裁の任期が残りあと1年8カ月となり、現状では任期中の2%の消費者物価上昇率の達成は到底不可能と見られています。7月1日発表の全国消費者物価指数(5月分)はマイナス0.4%と3カ月連続でマイナスとなりました。
だからといって日銀は2%物価目標の旗を降ろすわけにはいかないわけで、現状の異次元緩和継続で目標達成が難しいのなら、新しい手を打たざるを得ないとの見方から、マーケット関係者は毎回、追加緩和を期待するのです。
しかし、1月から始めたマイナス金利の拡大は銀行業界からの反発が激しく、副作用も大きいです。いまのように市場が大きく混乱している時にマイナス金利を拡大するのはリスクが大きすぎるとなれば、日銀は新たな緩和策を模索する可能性が高いと見ているようです。
果たして、それが「ヘリコプターマネー」なのかどうかが焦点ということですね。
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ヘリコプターマネーを「封印」していたバーナンキ前FRB議長
でもなぜこの時期に、わざわざバーナンキ前FRB議長は来日したのでしょう。
すでに安倍政権には、重要な経済政策の発表にあたって、ノーベル経済学者を招いたという「過去」があります。消費増税の先送りを決めたときです。
当時は、ポール・クルーグマン米プリンストン大教授が「消費増税は先送りすべきだと言ったから」なんて論理だったでしょうかね。
しかし実は、バーナンキ前議長が2002年9月に理事としてFRBに入ってから、ヘリコプターマネーについて公式に触れたのはたったの一度きりなのです。2006年2月にFRB議長になってからは、ヘリコプターマネーへの言及を封印しています。
もし今回の訪日で、バーナンキ氏が、安倍総理や黒田日銀総裁にヘリコプターマネーの話をしているとするなら、「なぜ本国でもやらなかったことを日本にやらせるのか」という疑問が残ります。
日本がバーナンキの「壮大な実験場」に?
これについては、日本を「壮大な実験場」にしようとしているのではとの指摘があります。
そもそもリーマンショック後の、アメリカにおけるQE1からQE3にかけての膨大な量的緩和政策は、「世紀の大実験」と言われてきました。現在は、その出口戦略にどう立ち向かっていくかが試されているわけですから、「日本市場で、さまざまな実験を行いたい」というのはアメリカ側の本音とも言えるでしょう。
実際にバーナンキ氏が「日本という市場を使って持論の効果を試したい」とまで思っているかどうかは知る由がありませんが、少なくともアメリカ当局は間違いなく、来る景気循環での景気減速(リセッション)に向けて、何らかの対策を講じなければならないと思っているはずです。
それがFRBによる金利政策、つまり利上げであり、次の景気減速に対応するために、いまのうちに金利の下げ余地を持っておこうとしているのですが、世界情勢から思うようにいきません。
そこで次の手としてヘリコプターマネー政策を検討しているのではないか?ただ、それはかなりの危険をはらむので、まず日本で実験してから考えようとアメリカは考えている――というのは穿ちすぎた考えでしょうか?
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2016年7月18日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『らぽーる・マガジン』(2016年7月18日号)より一部抜粋
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