未だにTPPについて「中国包囲網」などと厨二病的なことを主張する人が少なくなく、呆れてしまうのですが、現在の世界は「自己利益最大化を求めるグローバル投資家 対 各国の一般国民」の対立構造で動いているのです。(三橋貴明)
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年11月28日号より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
「自己利益最大化を求めるグローバル投資家vs日本国民」の戦い
もっともらしい「構造改革」の正体、それは亡国への道
未だにTPPについて「中国包囲網」などなど、厨二病的なことを主張する人が少なくなく、呆れてしまうのですが、TPPとは日本における「構造改革を後戻りさせない」「さらなる構造改革を推進する」ための仕掛けに過ぎません。
構造改革とは、各種の規制を緩和、撤廃し、法律改定により特定のグローバル企業、グローバル投資家の「利益最大化」を実現するレント・シーキングの一手法です。とはいえ、レント・シーキングを狙う構造改革派は、「目的は、自分の利益最大化です」と、説明することはできません。
というわけで、何となく「それっぽい理由」を持ち出し、規制の管理下にある業界を「悪者」とすることで、構造改革を進めようとしています。
全農解体でいえば「『攻めの農業』の実現に向けた農協改革」と、実に「それっぽい」タイトルで進められています。
成熟し多様化する国内市場、大きく拡大する世界市場に、魅力あふれる日本の農産物の真の価値を伝え、日本の農業を大きく飛躍させる重要な鍵を、農協組織が握っているのです。とりわけ、農業者や農業生産資材業界、流通加工業界と密度の濃い接点を有する全農が、その潜在力を大きく開花させ、農業者の協同組織という原点に立ち返り、農業者の立場であることを明確にして「攻めの農業」の実現をリードする組織へと生まれ変わることを期待して、その目指すべき改革の方向を提言します。
と、冗談でも何でもなく規制改革推進会議の提言の冒頭に書いてあるのです。
どうですか? この美辞麗句。中身のない、抽象用語の羅列。それでも何となく「それっぽい」ために、提言を読む人は、あたかも規制改革推進会議が真剣に日本の農業や農協について考えているかのごとき錯覚を覚えてしまいます。
とはいえ、実際の提言の中身は、「全農の生産資材に関する商社ビジネスを禁止する」「全農は農家から農産物を全量買い取れ」と、民間組織である全農に対する不当介入です。一体全体、何の権利に基づき、政府の諮問機関に過ぎない規制改革推進会議が、全農を「破綻」させるための提言ができるのか、今でも分かりません。
Next: 改革推進派が全農を「経営破綻」に追い込みたい理由とは?
全農を「経営破綻」に追い込みたい理由
とはいえ、理由は分かっています。全農を経営破綻に追い込むことで、日本の食糧安全保障の「盾」である全農グレインを売却に追い込みたいのです。
全農グレインが売りに出されれば、その日のうちに世界最大の穀物メジャーであるカーギルが買うことになります。全農グレインさえ消えれば、カーギルはIPハンドリングに余計なコストを費やす必要がなくなり、さらに利益を厚くすることで、「自己利益最大化」を達成できます。
我が国は、もはや遺伝子組み換え作物の流入を食い止める術を失い、国民は、「遺伝子組み換え作物を食する多数派の国民」と、「自分と家族のために安全な食物を入手売るルートを確立する少数派のお金持ち」に二分化されていくことになります。
中国では、共産党官僚が「中国共産党ご用達の農場」から安全な農産物を手に入れていますが、同じ構造になるわけですね。
ちなみに、カーギルは別に「日本の食糧安全保障を崩壊させてやる!」などと、厨二病的な発想で全農グレインを欲しているわけではありません。単に、自分たちの利益を最大化したいに過ぎないのです。全ては、利益のため。
現在の世界は、「自己利益最大化を求めるグローバル投資家 対 各国の一般国民」の対立構造で動いているのです。国民の多くがこの本質を理解しない限り、我が国の安全保障は弱体化し、各種の構造改革も止められず、最終的には亡国に至ることになるでしょう。
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/11/28号より
無料メルマガ好評配信中
三橋貴明の「新」日本経済新聞
[無料 ほぼ日刊]
●テレビ、雜誌、ネットで話題沸騰!日本中の専門家の注目を集める経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、浅野久美(チャンネル桜キャスター)、青木泰樹(経世論研究所 客員研究員)、平松禎史(アニメーター・演出家)、宍戸駿太郎(國際大学・筑波大学名誉教授)、佐藤健志(作家・評論家)、島倉原(評論家)、上島嘉郎(ジャーナリスト/元「正論」編集長)などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り! 日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!