ついに米中関税合戦が始まった。しかしトランプが作った障壁は長くは続かないだろう。否が応でも進むグローバル化で、中国人を中心に民族大移動が始まるからだ。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』2018年7月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
簡単には分断できない米中の相互依存。貿易障壁はいずれ崩れ去る
世界の貿易が「減速」へ向かう
トランプ米政権は7月6日、中国の知的財産侵害に対する制裁関税を発動、産業用ロボットなど340億ドル分に25%の関税を課した。
中国も同日、340億ドル分の報復関税を発動すると発表、世界の二大経済大国が幅広く高関税をかけ合うこととなった。
トランプ大統領は今後の展開次第では、中国からの輸入品ほぼ全てに関税を課す可能性も示唆した。
一方、先週米中が一連の関税を発動する前に発表された6月のJPモルガン世界製造業PMI指数では、新規輸出が約2年ぶりの低水準となる50.5に低下、1月につけた直近のピーク54.2から5カ月連続で減速した。
また、世界銀行集計2017年の世界貿易は前年比4.8%増、1兆1300億ドル拡大と、2011年以来の伸びだったが、貿易戦争懸念で減少し始めた。
こうした減速によって世界経済で失われる貿易量は数千億ドル規模に達する見込みで、米中が関税の標的とする貿易の規模をはるかに上回る。
米中経済の「つながり」は切っても切れない
とはいえ、これまでのグローバル化により、米中の相互依存は簡単には分断できないほど強まっている。
6月29日にサンフランシスコ近郊で行われた、中国の投資ファンドが主催する講演会「米中AIサミット」は、「米中はAIの世界の二大パワーハウスをつなげよう」という主催者のあいさつから始まった。
登壇したのは中国検索大手の百度(バイドゥ)やネット小売り大手の京東集団(JDドットコム)の投資担当者、さらには米国で活動する中国人のAI起業家や中国人民大学の法律家など。米国企業からはアップルの創業者の一人、スティーブ・ウォズニアック氏や、グーグルのヘルスケア事業の担当者ら300人が出席した。
トランプ氏は「中国が盗んでいる」と主張するが…
トランプ氏が「中国が盗んでいる」と主張する米技術の作り手は、そもそも中国出身であることが少なくない。
カメラで撮った画像を圧縮して録画する技術に優れた製品は中国のシェアが大きく、米企業も中国からの輸出に頼っているとされる。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは常々「顔認証で中国に負けている」と不満を漏らしている。また、「モバイル決済技術は米国より中国が上」とされる。
中国出身だが米国の大学を出て、そのままシリコンバレーの米企業で働く人も多い。スタンフォード大学では、2016年に約3,900人いた留学生のうち3割近い約1,130人が中国からの学生だった。「デザインエンジニアは業界でも今や半分くらいが中国出身者ではないか」と言われている。
一方、「優秀な人ほど中国に帰って起業したり、今の会社でよりいいポストを得たりしている。家族を米国に残して単身で帰る人もいる」。これを技術流出につながると懸念する人もいる。
※参照:トランプ制裁も分断できない 米中テックの濃い関係 – 日経新聞(2018年7月6日配信)
また、中国信通院の担当者は「我々はデータも半導体もできるようになっているが、アルゴリズムはグーグルなど米企業頼みだ」と発言。自前のAI開発へ人材の必要性を認識している。
Next: 向かう先は米国? 中国富裕層を中心に「民族大移動」が始まる
中国富裕層の3人に1人が国外移住を計画
一方、中国富裕層の3分の1以上が国外移住を考えている。
米国が最も移住したい先リストのトップに、4年連続で選ばれた。英国が2位となり、アイルランド、そしてカナダが続いた。優れた教育システム、よりきれいな空気、より安全な食糧などが、中国の投資家にとって米国の魅力となった。
トランプ政権の税制にもまた、回答者たちは高い点数をつけた。中国富裕層はロスアンゼルスやニューヨーク、ボストン、サンフランシスコなどの不動産を買い漁っている。
※参照:More than a third of Chinese millionaires want to leave China, here’s where they want to go – CNBC(2018年7月6日配信)
中国人を中心に「民族大移動」が始まる
有史以来、人類は何度も民族の大移動を経験したが、世界人口に占める中国人を含む有色人種の比率、米国における白人の比率などを鑑みれば、近未来の世界や米国の人種の比率は、民族の大移動に匹敵する。
このことは、世紀単位の時間で見れば、米国は白人支配の国ではなくなることを意味している。FIFAワールドカップでの白人選手の比率は下がり続けているが、ここにアジア選手の比率を一気に引き上げれば、近未来の白人選手の比率が、世界の人口の比率となるのだ。
下がり続ける、世界の「白人比率」
世界で最も移民の割合が高いのはUAEで、人口の88%が移民だ。次いでフランス領ギアナが40%、サウジアラビア37%、スイス30%、オーストラリア29%、イスラエル25%、ニュージーランド23%、カナダ22%、カザフスタン20%などが高率だ。米国は15%、ドイツも15%、英国は13%、イタリアは10%となっている。
米国の白人家庭の比率は、1999年までは80%を超えていた。それが一貫して下がり続け、2007年には75%を下回り、2017年は71.3%となった。黒人家庭は1999年の11.6%から2017年には12.0%となった。アジア系は2003年以降から統計(米国勢調査局)があり、当時の3.3%から4.6%に増えた。ヒスパニック家庭は1999年の8.3%から12.1%に増えた。
Next: 否が応でも進むグローバル化。貿易障壁はいずれ崩れ去る
貿易障壁はいずれ崩れ去る
グローバル化は政治的に意図され、政治的には十分機能しているとは言えないが、世界人口の拡大ペースのバラツキを鑑みれば、遅かれ早かれ世界はグローバル化する。
民主主義国家ならば、白人至上主義者の得票は減り続ける。力で押さえつければ、革命が起きる。グローバル化を妨げる貿易戦争や障壁も同じで、抜け穴だらけならば、わざわざ壊さなくても事実上なくなるが、効果的であればあるほど、時間の問題で「力」で壊されることになる。
トランプ大統領が作る「壁」は、同氏の退任後も「壁」として作用するならば、四面楚歌となって壊されてしまうのだ。
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『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2018年7月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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