コンビニのいびつな構造が「食品ロス」の温床になっています。おでん無断発注、見切り販売の禁止ほか、まだ食べられる食品が大量に捨てられる背景を解説します。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年11月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
本部利益のために捨てられる?これでは食品ロスはなくならない…
コンビニおでんが消える日
コンビニのおでんが恋しくなる季節になってきました。「レジ横おでん」で親しまれているおでんが、コンビニから消えるかもしれません。
ファミリーマートは2020年1月から、レジ横におでんの調理器具を置かず、注文を受けてからレンジで温める「レンジアップおでん」を導入することを決めました。
セブンイレブンやローソンでは、おでん販売に関する方針変更はないとのことですが、加盟店のオーナーに任せるということにしているので、今後は販売中止や縮小となる可能性はありそうです。
・人手不足
・フードロス
・収益率
これらの理由が、おでん販売中止の背景にあるようです。
「手間がかかるわりには儲からない…」ずっと温度管理のためにおでんのそばにいなければならず、「おでんのネタ」によっては煮る時間が違うので、だしを継ぎ足したり具材を入れ替えたりと、結構手間がかかります。
今回、取り上げるのは「食品ロス」です。
コンビにでは煮込みすぎたおでんや売れ残ったものは、すべて廃棄処分しています。まだ食べられるのに…この食品ロスが、大きな問題となっています。
「食品ロス」の実体
農林水産庁及び環境省「平成28年度統計」によれば、日本では、年間2,759万トンもの食品廃棄物等が出されているそうで、このうちまだ食べられるもの、いわゆる「食品ロス」にあたるのが、なんと643万トンもあるそうです。
消費者庁ホームページには、「食品ロス」に関して、国民1人当たり換算で「お茶碗約1杯分(約130g)相当」の量が、毎日捨てられていると警鐘を鳴らしています。
世界の穀物生産量は毎年26億トン以上で、在庫もあり、数字上では世界のすべての人が十分に食べられるだけの食料は生産されていると言われてます。
それなのに、国連食糧農業機構(FAO)2018年調べによれば、世界では8億2,160万人、人口の10.8%にあたる9人に1人が慢性的な栄養不足となっているのです。長期的に見ると2005年の14.5%から徐々に減少していますが、2016年からは増加傾向にあります。
地域別に見ると、人数ではアジアが5億1,390万人と一番多く、人口に占める割合でもアフリカが19.9%と深刻です。
貧困問題も背景にはあるでしょう。貧困が一番の問題と言えますが、他にも、今回のテーマである「食品ロス」問題がかかわっているようです。
先ほどの日本での「食品ロス」の数字をご紹介しましたが、世界では、国連食糧農業機構(FAO)2011年調べによれば、毎年、食用に生産されている食糧の3分の1にあたる13億トンが捨てられているのです。
廃棄される事情として、日本のような先進国では、「食べ残し」や「賞味期限切れ」など消費段階で捨てられる食べ物が多い一方で、開発途上国では、同じ時期に農作物がたくさん収穫できても「適切に保管できない」「加工するための技術が十分にない」「適切に運ぶための手段やガソリンを買うお金がない」などの理由で、必要な人に届く前に「無駄」になっているのです。
「十分な生産量があるにも拘らず、飢餓人口は減らない…」貧困で食糧が買えない事情もありますが、「廃棄」という無駄が問題とされています。
Next: まだ食べられるのに廃棄?「3分の1ルール」が大量の食品ロスを生む
穀物が家畜の肥料となる割合が増えている
穀物は人間が食べるだけではなく、先進国では穀物の6割(約4億トン)が、ウシ、ブタ、ニワトリなどの家畜のえさになっています。牛肉1キロ作るために穀物11キロ、豚肉1キロ作るために穀物7キロ、鶏肉1キロ作るために穀物4キロを消費しています。
結果として、世界の2割足らずの先進国に住む私たちが、世界の穀物の半分以上消費しているのです。
日本の消費で考えると、私たちの食生活において、第二次世界大戦以前と比べても、肉や卵を食べる量は10倍になっていて、その分、家畜のえさとして使う穀物の量も急増しています。
現在、えさ用のトウモロコシや大豆は90%が輸入しています。直近では、安倍総理が米国から大量のトウモロコシを輸入することを約束していましたね。
こうした穀物の消費の増加だけでなく、砂糖や植物油(ヤシ油)などのプランテーション作物を大量に輸入することで、途上国の生活にも大きくダメージを与えているのです。
家畜の肥料になるという要素は、非常に難しい問題ではありますが、とにかく無駄をなくそうというのが重要なのですね。
経済的な事情だけでなく、食糧に関しては必要な分だけを消費すればよく、過剰な流通は避けようというのが、ことの本質だと思います。
ただ各国の経済的な思惑が優先され、これはまさに、地球温暖化問題と同じ構図になっていると思われます。
賞味期限に敏感すぎる消費者
話をコンビニに戻しますが、コンビニやスーパーでは、まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」は、その構造的な体質によるもののようです。
「食品ロス」を減らすために、賞味期限の表示を「年月日」から「年月」に切り替える動きが広がり始めました。たとえば、賞味期限が「2019年12月1日」の商品も「2019年12月31日」の商品も、「2019年12月」に表示を統一して前倒しします。賞味期間は最長で約1カ月短くなりますが、商品の到着が遅れて賞味期限が1日前後しただけで返品や廃棄することがなくなり、むしろ食品ロスの削減につながるとしています。
賞味期限とは、「未開封の状態で保管した場合に、おいしく食べられる目安となる期限」のことで、期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないのですが、消費者は賞味期限の表示に敏感だというのもあるようです。
「3分の1ルール」とは?
この期限切れの商品が店頭に並ぶのを避けるため、食品メーカーと小売店の間では「3分の1ルール」という慣習が存在しています。
たとえば、賞味期間が6カ月の商品だと、卸業者は製造日から数えて賞味期間の「3分の1」にあたる2カ月以内にスーパーなどの小売店に納品し、納品が2カ月より遅れた商品は店頭に並ばず、卸業者からメーカーに返品されたり廃棄されたりしているのが現状です。
賞味期限前の商品が廃棄されているのです。
大手食品メーカーによると、返品された商品は「販売奨励金」を積んで別の小売店に買い取ってもらったり、ディスカウント店に転売したりしています。激安商品のからくりは、このようなコンビニやスーパーから返品されたものを専門にメーカーから仕入れているというところにあるようです。それでも引き取り手がないと、社内で無料で配布するなどしているようです。
賞味期限までの期間3分の1を過ぎただけで、商品価値は大きく下がるという風習が問題なのでしょう。
このルールは、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶのを避けるために1990年代に始まったとされています。欧米にも同様のルールはありますが、この「3分の1」が米国では「2分の1」、欧州は「3分の2」となっています。
昨今、日本でもこのルールの見直しがされていて、「2分の1」にする動きが出てきています。
流通経済研究所の推計では、卸業者からメーカーに返品される加工食品は2017年度に562億円(出荷額ベース)このうち2割はディスカウント店などに回り、8割は捨てられていたとのことです。
先ほどのルール変更で「3分の1」を「2分の1」にするだけで、年間4万トン(約87億円分)の廃棄が減らされるそうです。
食品廃棄が減ると二酸化炭素排出量も減ります。
Next: 「コンビニ会計」が食品ロスの元凶? 本部利益のために捨てられていく
「コンビニ会計」も食品ロスの元凶
コンビニのおにぎりやお弁当は、毎日大量に廃棄されています。全国のコンビニで、1日あたり384〜604トンの食品が廃棄されているとみられています。
スーパーマーケットや個人の商店では、売れ残って廃棄となる前に値段を下げて販売しているのをよく見かけますね。これを「見切り販売」と呼ぶそうですが、実はコンビニでは、この「見切り販売」がフランチャイズの本部から禁止されているのです。
本部からの指導は、
・長い目でみてお店のためにならない
・近隣のお店に迷惑
として「見切り販売」を禁止しているようで、ブランド価値を維持するためという名目もあるのでしょうか。
本部の指示に反して「見切り販売」をしたら、直ちに契約が切られるそうです。脅しですね。
「見切り販売」を禁止している背景には、コンビニ独特の会計システム「コンビニ会計」の存在があるのです。
たとえば、1個100円で販売するおにぎりを、原価は70円で10個仕入れたとします。10個売れると1,000円、その原価は700円、単純に利益は300円になりますね。
この利益を、フランチャイズ契約で、コンビニオーナーと本部で「4:6」で分け合います。本社の取り分の方が多いのです。この配分は、企業や契約年数によって異なります。
利益300円の場合、オーナー側に120円、本社側に180円が入ります。
もし、おにぎり2個が売れ残ったとしましょう。
売り上げは、100円 × 8個 = 800円 ですね。
原価は10個分で700円かかっていますので、
利益は 800円 − 700円 = 100円 となり、
先ほどの配分比率では、オーナー側が40円、本部側が60円となります。
ところが、コンビニ会計ではちょっと違うのですね。
原価の計算が、売れた分だけを考慮すれば良いことになっているのです。
上記の例の場合、8個売れたので、8個分の原価560円を売上から差し引きます。
800円 − 560円 = 240円
これが配分され、オーナー側は96円、本部側は144円の配分になります。
ところが、売れ残った2個分の仕入れ原価は、コンビニオーナーだけが負担することになるのです。
2個が売れ残った場合、オーナー側の利益は96円に対し、2個の原価140円を負担しますので、オーナー側は利益どころか44円の赤字となるのです。
見切り販売もできずに損失を被るオーナーたち
ここで「見切り販売」をして、残ったおにぎりを半額の50円で販売したとしましょう。
売上は、100円 × 8個 + 50円 × 2個 = 900円
仕入れ原価は、70円 × 10個 = 700円
利益、900円 − 700円 = 200円
この場合、オーナー側の取り分は80円で赤字にはならないのですが、本部側の取り分は120円となり、2個を「見切り販売」した方が廃棄するよりも本部の利益が少なくなるのです。
これを本部側は嫌がっていて、「見切り販売」を禁止して廃棄させているのです。
さすがに裁判所は、本部側からの「見切り販売」妨害を違法としています。
2009年6月22日、公正取引委員会は、セブン‐イレブン・ジャパンに対し、独占禁止法第20条第1項に基づき、排除措置命令を出しました。商品価格を値引いて売り切る「見切り販売」を制限したことが、「優越的地位の濫用」規定に抵触するとしました。
排除措置命令を根拠に、同年9月には「セブン-イレブン・ジャパン」の加盟店経営者が、「見切り販売」を制限され利益が減ったとして、同社に損害賠償を求めて、東京高裁に集団提訴しています。
この裁判は、2014年10月、最高裁が「見切り販売の妨害は違法」とする高裁判決を確定させました。
この構図を、消費者はどう思うのでしょうか。
Next: オーナー不在時に本部が勝手に「おでん発注」。食品ロスはなくならない…
食品ロスはコンビニの構造的問題
コンビニオーナー側の悲鳴を拾ってみますと…。
新商品が出れば、本部から“多く入れてください”と依頼が来る。過剰発注が常態化しています。
“恵方巻き”や“うな重”などの季節商品は、その日にしか販売できないのに、過剰なほど発注せざるを得ない…。
予約商品に関しては、必ず「前年超え」が基本…。
商品棚の商品が売り切れれば、本部に、売り切れた時刻が通達される。長い時間、売り切れが続くと、本部から督促が来る…。
過剰出店・過剰発注・過剰廃棄が常態化しているのが、コンビニエンスストア業界だといえそうです。
まさに「食品ロス」はコンビニ業界の構造的問題だと言えますね。
食品廃棄のうち、ある一定の割合は本部が負担してくれるらしく、コンビニオーナー側も、食品廃棄への罪悪感が薄れてくると本音を述べています。
オーナー不在時におでん発注
そんな中、11月15日、加盟店を指導する立場の本部社員2人が、おでんなどを店主に無断で発注していたことが明らかになったと報じられました。
店の独立性を保つ社内規定に反しているとして懲戒処分にしたということです。
不正は5月以降にあり、店主の不在時に、店に設置されているコンピューターを勝手に使って発注したというのです。
本部社員に、数字に対するプレッシャーがあったのでしょうかね。こういうのも「食品ロス」に繋がっていくことになりますね…。
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『らぽーる・マガジン』(2019年11月18日号)より一部抜粋
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