コロナ危機が経済にも政治にも直撃しています。市場への影響はリーマン・ショック超え確実と見られ、米大統領選の流れをも大きく変えようとしています。(俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編)
※本記事は有料メルマガ『俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編』2020年4月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
1. 新型コロナウイルスが、アメリカ大統領選の行方をも左右する
今回は、「最新の世界金融事情」特集の続編をお送りします。本特集では、「金融のプロは世の中をどう見ているのか?」をテーマに、先月の金融業界を中心に、世の中の動きを振り返ってみたいと思います。
本日も、金融事情に詳しい大前雅夫さんをゲストにお呼びしています。大前さんは、当メルマガの金融情報監修をして下さっているFAN GLOBALSOLUTION PTE. LTD.のCEOにして、外国為替、金融商品の専門家でいらっしゃいます。
プロフィール:大前雅夫(おおまえ まさお)
高校、大学時代をアメリカで過ごし、金融業界に就職。HSBC(香港上海銀行)東京支店勤務後、HSBC香港本店では、日本人初のチーフトレーダーに就任。その後、モルガン・スタンレー社、バークレーズ銀行などを経て独立。2012年よりオオマエ・キャピタル・マネジメント社を設立。シンガポール通貨庁に登録し、ファンド運用業務を行う。現在、運用の傍らセカンドキャリアとしての資産形成や金融教育を支援するためのFANを主催し、シンガポールを中心に自身の経験を活かした講演活動や、アジアだけではなく、欧米の投資案件の開拓、検証等を行なっている。(以下、本文中について、名前が出てこない限り同一話者、敬称略)
<ポイント:コロナ・ショックによる影響は、いつまで続くのか?>
俣野:それでは大前さん、本日もよろしくお願いいたします。今、世界は新型コロナウイルス問題で、大変な状況になっていますね。
大前:私が前回、話をした時から、マーケットもすっかり変わってしまいました。誰も、予想だにしなかった事態です。それだけに、インパクトは非常に大きなものになっています。
実はその前から、世界経済はすでに後退局面に入っていました。それまで、アメリカには「自分たちは世界一だ」という自負があって、それが世界で様々な軋轢を生んできました。結果、そこに隙が生まれて、「まさか」の事態になった、というわけです。
俣野:大前さんは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行った時に、香港に駐在しておられましたね。
大前:当時、「香港はパニックになっている」と言われていましたが、言葉で言うほど、街中が混乱していたわけではありません。
確かに、香港市民は言われた通り、マスクや手袋をしたり、エレベーターのボタンにビニールを貼って消毒したりとか、そういうことはしてはいました。
「普段、人でごった返している香港から人がいなくなった」という驚きはありました。けれども、食品がなくなるといった事態にはならなかったので、現在のヨーロッパは深刻な状況だと思います。
俣野:日本も、大変な状況とはいえ、世界的に見れば、被害がまだそこまでではないようですが。
大前:日本が、特に欧米などと違う点は、もともと日本は災害が多い国だということです。タワーマンションの住民でさえ、年に何度か避難訓練をするお国柄ですから。
震災が発生する度に、日本人が助け合ったり、黙って配給の列に並んでいる様子は、世界中で称賛の的になっています。
これがアメリカなどの場合、ハリケーンがあった後は、たいてい略奪が起きたりしますので。国民性というのは、やはりあると思います。
ただ、SARSの時と違って、今はSNSがあります。たとえばドラックストアからトイレットペーパーがない映像が瞬時に流れれば、それが人々の心理を煽ることになるのは、仕方がない面はありますよね。
今回のパンデミックの影響は大きく、感染拡大がピークアウトしたとしても、マインドが回復するには、最低でも1年以上は掛かると考えています。
俣野:この問題は、アメリカ大統領選にも、大きな影響を与えそうですね。
Next: 何と言っても、株価が下がった影響は甚大です。トランプ氏がこれまで強調――
米大統領選も大荒れに
大前:何と言っても、株価が下がった影響は甚大です。トランプ氏がこれまで強調してきた成果(株高、アメリカの好景気)が、一度に吹き飛んでしまいました。
民主党は、そこにいろいろな枝葉を付けて、ここぞとばかりに攻撃してくるでしょう。トランプ氏にとっては、苦しい選挙戦になると思います。
今回の新型肺炎の件がなければ、トランプ氏が余裕で再選、というシナリオだったはずですが、大きな番狂わせとなりました。
俣野:民主党候補は、バイデン元副大統領に決まりそうでしょうか。
大前:そのようですね。3月17日に行われたフロリダ州、アリゾナ州、イリノイ州での予備選も、ジョー・バイデン氏が圧勝しました。指名を争っているバーニー・サンダース氏が、一部に出ていた撤退報道を否定しなければならない場面も見られたほどです(編注:原稿執筆時点4月1日。なお4月8日にはバーニー・サンダース氏が民主党候補指名争いからの撤退を表明。これで事実上、同党の候補はジョー・バイデン前副大統領に決まりました)。
以後は、トランプ氏とバイデン氏の一騎打ちに照準が絞られてくると思われます。
けれど、前回Vol.162「アメリカ特集」でもお伝えしたように、バイデン氏はアルツハイマー病ではないかとの、もっぱらの噂です。
参考:感情的に怒鳴り、人前で妻の指をくわえ… 圧勝のバイデンが抱える「不安の種」- クーリエ・ジャポン(2020年3月15日配信)
大前:そうはいっても、バイデン氏以外で、トランプ氏と対等に渡り合える人物が、民主党の中にいないというのが実情です。
バイデン氏は3月15日、副大統領候補に女性を指名すると発表。噂では、ヒラリー・クリントン氏を指名するのではないかと言われています。
俣野:バイデン氏が指名を獲得すれば、オバマ前大統領が全面的にバックアップするのでは、という予測もありますね(東洋経済オンライン、2020年3月5日)。人々にオバマ時代への郷愁を呼び起こさせよう、ということでしょうか。
戦争が始まる可能性も?
大前:民主党としては、それ以外に戦える有効な戦略がないのでしょう。仮に、バイデン氏が大統領に就任後、職務を遂行できないとなれば、病気を理由に引きずり下ろして、「アメリカ史上初の女性大統領の誕生」という民主党のシナリオも透けて見えます。
しかし、このような事態を、アメリカ国民が黙って見過ごすはずはないと思います。ですからアメリカでは、今後、新型コロナ問題以外に、政治的な混乱がしばらく続くと思います。
国内が分断され、かなり荒れるのではないでしょうか。もしかすると、戦争が起きる事態になるかもしれません。
俣野:アメリカで、ですか?
大前:もちろん、アメリカ国外です。世界では、これまでにも国内の不満をそらすためとか、国内をまとめるための手段として、戦争がしばしば行われてきました。1929年の世界恐慌の後にも、戦争が起きましたから、今回のコロナ恐慌の後にも、起きる可能性はあると思います。いずれにせよ、アメリカ国内がかなり混乱するのは、避けられないでしょう。
俣野:大変な事態になりそうですね。
新型コロナウイルスをキッカケに、アメリカが分断の危機に陥る可能性大
Next: いまだ、マーケットはショック状態にあります。非常にマズイ状態です――
2. この1ヶ月のマーケットの動き
<ポイント:今回のコロナ危機は、リーマン・ショックを超える>
俣野:続いて、市場の動きについては、いかがでしょうか?
大前:いまだ、マーケットはショック状態にあります。非常にマズイ状態です。正確な数字は、これから出てくることになりますが、酷い結果になることは、覚悟しなければなりません。
今回のコロナ危機は、これまで経験したことのない事態のため、AIの判断基準となるデータがありません。そのため、アメリカの政策金利見通し(ドットチャート)も、割り出しができない状態となっています。
「いつ、これが収束するのか?」というのが見えなければ、期間を決めることができず、計算もできないわけです。
石油価格も、暴落が続いています。今回の件によって、企業の減産や需要が低下することが予想されたことから、2月末には目安価格の50ドルを下回りました。そこに追い打ちをかけたのが、ロシアとサウジアラビアの対立です。
3月に入り、OPEC(石油輸出国機構)とその他の産油国からなるOPECプラスは、ロシアが減産に合意しなかったことから、協議が決裂します。
サウジアラビアが対抗処置として、4月から原油の増産を発表したことで、20日のニューヨーク先物では一時19ドル台を付けるなど、18年ぶりの安値となりました。(日経新聞Web版、2020年3月21日)
なぜ両国がこのような行動に出たのかについては、ロシアがアメリカのシェールガスに打撃を与えることを狙ったとか、サウジのムハンマド皇太子が国内での影響力を拡大するため、といった説などが出ています(Sputnik日本、3月11日、日経新聞Web版、2020年3月8日)。
もしかしたら、中東あたりで戦争が起きるかもしれません。
世界経済は、明らかにスローダウンから、リセッション(景気後退)の局面に入っています。日本はこれによって、一気にデフレ経済に逆戻りするでしょう。
これまで、リーマン・ショック以来、世界では国がリーダーシップを発揮し、中央銀行が歩調を合わせた金融政策を打ち出すことで、株高を誘導してきました。今まではそれが功を奏し、アメリカを始め、世界的な株高となって、経済を牽引してきました。
2008年の世界金融危機の際には、各国が素早く対応することで、経済が崩壊するのを食い止めることに成功しました。
でも今回はもう、お金がありません。この騒ぎによって、破綻する中央銀行が出てきてもおかしくない状況です。
日銀も危ない?
俣野:日銀も危ないのではないでしょうか。
大前:日銀は3月16日、市場の動揺に対応するための金融政策決定会合を2日間、前倒しで開催。それまで、年間6兆円としてきたETF(上場投資信託)の購入目標を年間12兆円に増やした他、企業が短期資金を調達するCP(コマーシャルペーパー)や社債の購入、中小企業の資金繰り支援のための資金供給も拡充すると発表しました。
俣野:市場は一瞬、この対応に反応したものの、この分では、株価はすぐには戻りそうもないですね。
大前:金融システムがマーケットに異常な歪みをもたらし、金融危機を引き起こしたリーマン・ショックの時と違い、今回は、新型肺炎の流行を少しでも早く終わらせるために、実際の経済活動を制限しています。
リーマン・ショックの時は、金融から実体経済に波及するまでにタイムラグがありましたが、今回はダイレクトですから、「流行の収束が見通せない中でも、とにかくできることは何でもやろう」ということなのでしょう。
Next: 日銀の黒田総裁は、日銀のETF購入について、「経済や物価にプラスの影響――
日銀の金融政策に限界が来ている
大前:日銀の黒田総裁は、日銀のETF購入について、「経済や物価にプラスの影響を与えることが目的」だと述べています。
もちろん「株価を支えるため」という思惑がまったくないのか?といえばウソになるでしょう。とはいえ、今回のコロナ危機が早期に収束しない見通しであることは、黒田氏も会見時に言及しています。
今回の対応は、短期的な株価の動向よりも、日銀の役割として、
・企業活動を滞らせないための資金の流動化
・金融市場に起きているショックを沈静化させること
…に徹した結果だということが、政策決定会合後に行われた記者会見での談話から浮かび上がってきます(日経新聞Web版、2020年3月16日)。
俣野:黒田総裁は、18日に行われた参院財政金融委員会の中で、「ETFの購入によって、含み損が2~3兆円になっている」と発言しましたね。
大前:先ほどの黒田氏の発言にもあったように、もともと、日銀がETFを購入してきた目的とは、日銀が株を買うことで、企業がそのお金を設備投資に回したり、社員の給料を上げるための資金に回すだろう、と期待してのことです。
ところが、大多数の企業は、お金をそのようには使いませんでした。多くは、内部留保で貯め込んだり、自社株買いをするための資金に充てられました。
2019年9月、財務省が発表した法人企業統計によると、2018年度の企業による内部留保(利益剰余金)が、7年連続で過去最大を更新(金融・保険業を除いた全産業ベース)。
上場企業の2019年度の自社株買い計画に至っては、同年5月21日時点で約3兆4000億円と、前年同期比9割増と急増しました(日経新聞Web版、2019年5月22日、9月2日)。実のところ、18年度の自社株買いの総額は、日銀のETF買い入れ額を上回っていたのです。
これが、市場にお金が流れず、物価が上がらない、従業員の給料も上がらない一因となってきたわけです。
俣野:日銀による金融政策の限界、ということですね。
今はまだ、ショックの只中にある
3.我々は、この危機にどう対応すべきか?
<ポイント:次の時代のニュー・ノーマルとは何か?>
大前:この自社株買いについては、今、アメリカでも大きな問題となっています。確かに自社株買いをすることで、1株あたりの価値が上がり、経営指標も改善したり、敵対的買収を防ぐといった効果もあります。
一方、自社株買いで企業価値が上がれば、株主は高配当をもらえます。設備投資などを行うよりも、自社株買いで手っ取り早く利益を得ようとするほうが確実だ、という易きに流れる風潮が、アメリカの企業界にあったのは事実です。
このようにして上がった株高は、再選を狙うトランプ氏にとっても、非常に都合のいいものでした。
俣野:でも、状況は変わってしまった、と――
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『俣野成敏の『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』実践編』(2020年4月1日号)より一部抜粋
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