足元の米国株の大幅上昇は、失業などで一時的に給付金が支給されて既存の月収よりも手取り金額が増えてしまった米国のミレニアル世代が、その資金を株式市場に突っ込んだことが要因のひとつだと見られます。しかし、ここにも大きな落とし穴があります。給付金の支給が7月に終了する段階で、多くの個人投資家は株式市場から資金を引き揚げる可能性が指摘され始めています。(『今市太郎の戦略的FX投資』今市太郎)
※本記事は有料メルマガ『今市太郎の戦略的FX投資』2020年6月15日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
アナリストの楽観論に疑問
相場の予想などというものは、別に上昇すると見立てても下落すると見立てても個人の勝手ですから、好きに予想すればいいという話になります。
足元の金融市場では、6月11日に本邦株式市場から崩れだした相場は、NYタイムに入り米株市場でも大暴落を示現することとなったものの、週末の12日にはかなりの戻りを試すこととなりました。
そのためか、依然コロナバブル相場の継続を口にする市場関係者やアナリストが多く、その根拠についてかなりクビをかしげたくなるような内容も飛び出しています。
日経平均株価 日足(SBI証券提供)
相場の先行きですから、「絶対」などということはあり得ません。
したがって、ここから本邦証券業界のアナリストが多く口にするように続伸して日経平均は2万4,000円超の全値戻しに到達することも、まったくないとは言い切れないわけです。
しかしそれでも、荒唐無稽な楽観論を振りかざして先行き予測をされるのは、どうも釈然としない気分です。
米株の大幅上昇は「FRBの無制限QE」と「米国政府の失業給付金」が大きな要因
足元の米株の上昇は、とにかく3月の相場の大暴落を受けて、即座にFRBが実施した無制限QEの影響が極めて大きいと言われます。
NYダウ 日足(SBI証券提供)
直近6月初旬におけるFRBのバランスシートの総額はすでに7.2兆ドル、日本円ではすでに770兆円で、2014年のQE3終了直後の4.5兆ドルの1.6倍に膨れ上がっています。
ですから、余剰資金が大量に株式市場に入ってきて、景気に関係なく大きく相場を押し上げるのは当たり前の話。
それでも市場参加者は闇雲に何処の株でも買い上げているのではなく、FANG+マイクロソフトに集中していることが、結果として株価指数を大きく引き上げている状況です。
NASDAQ100が米国株式3指数の中でも突出して上昇し、10,000を瞬間的に超えたのもこれが大きな理由となっています。
指数だけ見ていますともはや米株は絶好調にみえますが、実は上昇している銘柄とそれ以外との乖離はますます広がりを見せています。
米株上昇といっても、実はここにひとつの落とし穴が存在することがわかります。
Next: 足元の米株の大幅上昇は、失業などで一時的に給付金が支給されて、既存の――
ミレニアル世代個人投資家の買い上げが終焉する段階が相場のピークアウトか
すでに当メルマガでもご紹介していますが、足元の米株の大幅上昇は、失業などで一時的に給付金が支給されて、既存の月収よりも手取り金額が増えてしまった米国のミレニアル世代(1980年代後半から2000年代初頭に生まれた、2000年代以降に成人あるいは社会人になる世代)が、その資金を株式市場に突っ込んだことに起因していることは厳然たる事実です。
実際、所得統計を見ても、4月以降の給付金支給から所得が増えている層はかなり出現しているようです。
彼らはそれをロビンフッド、イー・トレード、シュワブといった取引手数料のかからないオンライントレード口座を通じて「FANG+マイクロソフト」などに集中投資している様子。
こうした米国個人投資家の売買熱は今も冷めやらぬ状態が続いており、11日の大暴落がおきてもこの手の優良銘柄の下げはさほど大きなものではないことから、アクセスができないという異常事態も連日発生している状況です。
しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
給付金の支給が7月に終了する段階で、多くの個人投資家は株式市場から資金を引き揚げる可能性が指摘され始めている状況です。
もちろん儲けが出れば利確して引き出すでしょうし、資金が続かなければこれ以上買い上げることはなくなり、相場はピークを迎える可能性がかなり高くなるわけです。
これまでにも個人投資家が相場を持ち上げるといった状況は何度か見られたものですが、残念ながら、長期間の持続力がないのが特徴。
相場が下落しはじめるとパニック売りになることから、逆に最終局面では大きく値を下げることに寄与してしまうことがある点にも注意が必要です。
世界の財政支出は1,000兆円超だが、景気浮揚につながるかどうかは不明
IMFは世界の新型コロナに対応した財政支出が1,070兆円に上り、今後もコロナ感染が続けば、さらなる上乗せが必要になるといった見方をしています。
こうした財政支出は当初はほとんどが休業補償や所得補償などに使われることから、もちろん景気を下支えする重要な材料にはなります。しかし、必ずしも景気を持ち上げる要素になるかどうかは別問題です。
事実、1929年からの世界大恐慌を受けてルーズベルトが実施した「ニューディール政策」でも巨額の財政出動が施されたのは有名な話ですが、その後、急激に景気が回復することはなく、株価も暴落の起点からなんと90%近く下落することになりました。
中央銀行の緩和措置を含めれば、債券買い入れなどは財政出動と合計すれば少なくとも計15兆ドル(1600兆円強)になるわけですから、政策実施の初動で株価が戻るのは当たり前の話。
その賞味期限は1929年の暴落時でもせいぜい5か月ですから、今回のようにスピードの速い暴落と回復のプロセスでは、再下落まで5か月を待たない可能性は十分にありそうな状況となってきています。
マクロ的には凄い数字の投入ですから、株価もすぐに戻ると見るのは簡単です。
しかし、初動の戻りから先について、この動きが継続するのかどうかはまったく不明であり、過去のケースはそうした楽観的状況をまったく示唆していない点も気になるところです。
Next: 今回の新型コロナ起因の経済の壊滅的な下落は、実態経済にいきなり影響を――
楽観過ぎる「コロナ起因景気は底をつけた」という見方
今回の新型コロナ起因の経済の壊滅的な下落は、実態経済にいきなり影響を与え、人・モノ・カネが即座に止まってしまいました。
そのことから、過去の金融バブル崩壊のように相場暴落以降に実態経済に影響を及ぼすというよりは、いきなり底に突っ込んでしまったので、ここからは回復・上昇する軌道以外は待っていないといった、これまた楽観的な見方が市場を跋扈(ばっこ)しはじめています。
しかし、こちらもかなり怪しい話。確かにいきなり実態経済に猛烈なインパクトを与えたことは事実ながら、米国では今年の2月まで「12年と8か月」というこの国が建国されてから最大の景気拡大を享受してきたわけですから、4か月かそこいらで景気が回復基調に戻ると期待するのは楽観的にもほどがある見立てと言わざるを得ません。
GDPなどのハードデータは遅行指標ですから、これから現実経済の悪化状況とその推移は詳らかになるものと思われます。
未曽有の失業者が出て雇用機会もさして回復できていない状況下で、先進国のGDPはほとんど7割前後を個人消費に依存しているという構造から考えれば、少なくとも消費領域でV字回復が示現する可能性はほとんどないのが実情です。
肝心要の新型コロナウイルスの感染問題は決して収束したわけではありませんし、ここから再発が顕在化すれば、経済はさらなる悪化の方向へ向かうのは間違いありません。
コロナ問題は何も解決していない
冒頭にも書いた通り何も悲観論を強く展開しようと思っているわけではありませんが、こうした楽観的な視点が市場に広範に広がった時に、とりかえしのつかないような相場の2番底、もしくはさらなる大底への暴落が起きるものです。
このメルマガの読者の方だけはそうしたリスクについてまだ備えを解くことなくトレードされることを強くお勧めしたい状況です。
ここから日経平均は再度上値を試すかのような動きを示現するのかも知れませんし、ドル円も108円台まで戻ることになるのかも知れませんが、相場状況の本質はそんなに改善していないということだけは意識していただきたいと思います。
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『今市太郎の戦略的FX投資』(2020年6月15日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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