ワタミ過労自殺裁判を新聞各紙はどう伝えたか

 

「白旗」を上げたワタミ

【朝日】は1面左肩。関連記事は10面経済面と39面社会面。

1面記事は基本的な情報だが、裁判の過程で、渡辺氏の経営理念が過酷な長時間労働を強いるワタミの体制を作ったとして、遺族側が渡辺氏個人の責任を追及したことを強調。当初、渡辺氏は「道義的責任はあるが法的責任はない」と争っていたが、和解で「自らの経営理念が過重労働を招いた」「最も重大な損害賠償責任がある」と認めた。

ワタミは今後、過重労働対策として、労働時間の正確な記録にも同意。さらに、研修会への参加や課題リポート作成時間を労働時間と認めて残業代を払う、給与から天引きされていた書籍(渡辺氏の本!)代と服代を返金するなども和解条項。

10面は見出しが「ワタミ、再建険しく」。上場以来の営業赤字に陥っており、既に3割の居酒屋店舗が閉鎖に追い込まれていること、画一的なメニューを嫌って客離れがおき、ブラック企業批判がそれに拍車を掛けていること。介護事業は稼ぎ頭だったが、売却済み。いまや業態転換を迫られている状態だという。

39面記事の見出しは「ブラック批判 一転和解」。渡辺氏はかつて朝日新聞の取材に対して「(亡くなった)本人を採用したのが問題だった」と話したことについて「すべて撤回したい。なくなられた方には一切責任はないし、ご遺族には全く責任はないと思っている」と和解後の会見で取り消したという。

ワタミは「高まるブラック企業批判、そして店舗での深刻な客離れ」。重大な経営危機に直面し、「白旗」を上げたことになると。

NPO法人POSSEの今野晴貴代表は取材に答え、ワタミ側が非を認めて賠償に応じたことを意義深いとし、「今回のケースは立ち上がることで相手に非を認めさせられる、という希望になる。…人を使い潰すような企業は社会的制裁を受けることも示された」としている。

uttiiの眼

ワタミ側の全面敗北。単に、1つの事例に対する対処ではなく、企業姿勢そのものを改めることが合意されている。

経済面には、1面記事の執筆者でもある沢路毅彦編集委員が重要な解説を書いている。今回の裁判の意義を、経営者と従業員の距離が遠い大企業でも、従業員の過労死や過労自殺について経営者に法的な責任がありうることを、「日本海庄や」事件に続き、再度確認したという点に求めている。会社法に「経営者に重大な過失などがあって本来の役割を果たさず、会社が第三者に損害を与えた場合、経営者に責任がある」という規定があり、これが根拠になったと。

同時に沢路氏は、「募集時に労働条件は適切に示されていたのか」「労働基準監督署はもっと早く指導することはできなかったのか」と問いかけ、「求人情報の規制や労働行政のあり方など、ワタミ問題が示した課題は残ったままだ」という。

全くその通りだと思う。とくに労働基準監督署は、その名に「署」が付いているように、労働分野における一種の警察であり、国家試験に合格して労働基準監督官に採用されたものは、「特別司法警察職員」の身分を有する。居酒屋での過重労働は遙か以前に摘発されて然るべきだった。ワタミの場合のように、「365日24時間、死ぬまで働け」などという「経営理念」を平然と公表し実践するような経営者は、それだけで「重大な過失」にあたり、取り締まりの対象とすべき輩(やから)と言えるだろう。

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