ワタミ過労自殺裁判を新聞各紙はどう伝えたか

 

遺族は原因究明を望んだ

【東京】は1面トップでこの問題を扱う。見出しは「ワタミ過労自殺 和解」。過労自殺を巡る経緯を記した年表は、女性が入社してから今回の和解成立まで。記事は基本的な情報に加えて、渡辺氏が自身のフェイスブックに載せたコメントを要約している。「ご両親さまを傷つけたこれまでの態度、認識、発言は全て取り消す」と謝罪、「ワタミは私のリーダーシップと情熱の下、急速な拡大成長を遂げたが、その過程で起きた今回の事実は取り返しがつかず、私の人生最大の反省点」とした。

28面と29面に跨がる社会面の記事。28面側は、和解条件の中に同僚800人の待遇改善に関する条項も入っていることを記す。29面側は、「『過労死もう二度と』」「両親、実態解明求め7年」との見出し。両親の戦いの意義に焦点を当てている。写真は、亡くなる1ヵ月前に女性が手書きで言葉を記したノート。「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません どうか助けてください 誰か助けてください」と綴られている。

記事29面の前半。両親は、「なぜ娘は死ななければいけなかったのか」という問いに対する答えを求め続け、12年2月に労災が認められた後も追及をやめなかった。「原因究明が先だ」として、金銭だけの解決を拒否。「ワタミの実態を明らかにしなければ再発防止はありえない」として訴訟に踏み切ったという。父親は「過労死撲滅に取り組む人たちや苦しんでいる人たちに良い影響が出ることを強く望んでいる」としている。

後半は「『ブラック』批判 やまぬ逆風」と題して、ワタミの経営問題に触れた後、今野晴貴氏のコメントを取っている。今野氏は「ワタミ側が謝罪や和解条項の公開などの和解に追い詰められたのは、世論や社会の動きに押されたからだ。非常に意義がある」と評価。「今もなお、ブラック企業は増え、苦しんでいる若者は多くいる。被害者たちが立ち上がり、救済される道を開く契機になってほしい」と語っている。

uttiiの眼

今野氏のコメントで気が付いた。和解はしばしば、和解条件の非公開を条件になされる。このケースがそうならなかったのは、本当に良かった。中身に、全企業に通底する潜在的な「再発防止策」が書き込まれていることを考えても、非常に意義深い。労働組合がダメなら、世論や社会の様々な動きによって圧力を掛け、あちこちのブラック企業に「白旗」を掲げさせることができるかもしれない。そんな予感と希望を感じさせる和解だった。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/12/10号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
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