ワタミ過労自殺裁判を新聞各紙はどう伝えたか

 

デフレの結果?

【読売】も1面左肩に基本情報。39面社会面に記事と短い解説。

39面記事は見出しが「ワタミ 謝罪し和解」「連日の深夜勤、研修…ノートに「助けて」」「両親『後悔は続く』」。

書き出しは「連日の深夜勤務に、創業者の理念集を暗記させるテスト。8日に和解が成立したワタミを巡る過労自殺訴訟では、若者に過重労働を課す企業体質の一端が明らかになった」というもの。亡くなった女性は、開店2時間前の午後3時には出勤し、勤務終了は早くて翌日の午前3時半。タクシーでの帰宅は許されず、始発電車まで時間を潰したという。休日は「自己啓発」と称した研修への出席を指示され、渡辺美樹氏の著書を読んだ感想文を提出させられ、理念集の暗記を強いられた。入社後2ヶ月で丸1日休めたのは4日だけ。ノートに「身体が痛い。気持ちが沈む。どうか助けて」と記した1ヵ月後、命を絶った。和解協議で渡辺氏は「会社の理念が一人歩きし、…非常に悔いている」と話したというが、父親は「簡単には信じない」と語っていると。

解説では、賠償金が高額になった理由を「再発防止を強く求めてきた両親の思いが反映されたため」としている。また、入社間もない若者が過労自殺に追い込まれるケースは2000年代後半から相次ぎ、「デフレ下で企業が人員を削減し、新人教育の余裕がなくなったことがある」という。国は今年1月以降、過労死ラインとされる100時間以上の時間外労働が行われている事業所などを抜き打ちで監督指導し、3,600事業所に対して既に実施されたという。しかし、企業と労組の合意があれば過労死ライン越えも違法ではないのが現実。ブラックバイトと言われる学生アルバイトの実態もあり、国がより厳しい規制を設ける必要を検討すべきだという。

uttiiの眼

創業者の理念集なるものを暗記させるということだけで、異様な経営実態を示しているように感じる。

この問題を報じる《読売》の記事には、いくつかの問題を感じる。1つは、社会面記事の見出し。両親が娘を救えなかったことを後悔しているのは当然だとしても、そのことを見出しにとられると、意味が逆転しかねない。つまり、娘の死に対して一番の責任は両親にあるという印象を、少なくとも、こうした裁判一般に批判的な見解を持つ人々は持つ可能性がある。《読売》の記事を見ても、問題の本質がそこにないことは明らかだ。したがって、「両親の後悔」を見出しにとるべきではない。

もう1点。解説部分は意味が不分明だ。高額賠償金は、企業と経営者に対する「懲罰的な意味合い」だと弁護士は語っているはずだ。そう書けないのは、英米法圏と違い、日本の法体系では、不法行為による損害賠償で懲罰的な賠償額を認めることはないという判断なのだと思われるが、慰謝料という存在を考えれば、実質的には日本でも懲罰的な賠償額認定は行われているとも考えられる。今回の金額は、通常の慰謝料と比較しても大きくなっており、その点を弁護士が「懲罰的」と表現したものだから、他紙がやっているように、弁護士の発言を引用する形で書けば良いものを、と思う。記者は「再発防止を強く求めてきた両親の思いが反映されたため」などと、かえって意味を不明瞭にする方向に書き下している感がある。

さらに、若者の過労自殺が目立ってきた理由を「デフレ下で企業が人員を削減し、新人教育の余裕がなくなったことがある」とまるで仕方がないといわんかばかりなのだが、これも眉唾物だ。異常な職場環境が続いてしまう最大の要因は、組合がないこと、あるいはあっても力がないことだろう。「死ぬまで働け」と呼号するような労務管理(もはや「管理」とは言えまいが…)があれば、直ちに職場内で反撃の動きが起こり、生産が止まる、営業が止まる。そのような力関係がなければ、経営側はやりたい放題になってしまう。加えて、デフレが続いたとしても、そのもとでの労働環境が悪化しないように努める国の役割があったはずだ。2014年度、未遂を含む過労自殺で労災認定されたのは99件と過去最高だという。仕方がないとは言わせまい。

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