新型コロナウイルスでコモディティ価格も一時大きく値下がりしたのですが、今は原油価格を始めあらゆるコモディティの価格が上昇しつつあります。その中で特に上昇が際立つが銅の価格です。今回は、なぜ銅の価格があがっているのか、そしてそれに関連する銘柄を3つ紹介させていただきたいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従ことした後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
コロナからの回復。そしてさらなる需要増へ
これは原油価格です。
原油<WTI原油先物> 週足(SBI証券提供)
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた昨年の2月、3月。この時には先物価格が一時マイナスになるといったとんでもない状況でした。
この時は世界経済の減速というのも懸念されていましたし、この先物についてはもはや需要が蒸発してしまって、先物を持っていて放っておいたらやがて現物が届いてしまうので、その現物を保管する倉庫すらない状況で一時マイナスに陥りました。
これは石油に限らずあらゆる実物の商品コモディティ商品に関して、同じような状況で下がりました。
一方でその後経済も回復基調になって、コロナの状況というのも見えてきたり、あるいは金融緩和でお金もジャブジャブに余っているということで価格が回帰する動きを見せまして、いよいよ原油価格に関してはコロナ前の水準をすでに回復しているという状況になっています。
これよりもさらに特徴的な動きをしているのがこの銅の価格です。
Copper先物<COMEX> 週足(SBI証券提供)
それまでこの2.8ドルといったところが、コロナの時にはやはり下がったのでが、すぐに回復しまして今や4ドルとその時から比べると、1.5倍から2倍近いところにまで上昇しています。
この銅の価格が何故あがっているのかという要因をお話ししますと、まずは電気機器や自動車の需要が回復したということです。
新型コロナで工場も停止してしまったり、一方では需要もなかなかないということで使われない物は下がってしまうということになったのですが、これらの需要が回復してどんどん新たに生産しなければならないので、需給の逼迫によって価格が上昇したという側面があります。
ただこれだけだったらコロナ前よりも上がるということにはなかなかなりませんが、それに対して今度はデジタル化ということでIT機器なんかも電気機器ですから、いわゆる銅線を使うことが増えてその需要が回復し、さらには増えたということが挙げられます。
実需と思惑が合致した上昇
また、自動車のEV化というのも非常に大きな流れです。
電子機器というと一つ一つは小さい良いものが多いのですが、自動車ということになると大きいので、その大きい自動車が電気を沢山使う電気自動車になっていくということで、当然銅の需要というのもますます増えていくということが想像できます。
また各国は新型コロナからの経済回復を図ろうと、どんどんグリーンイノベーションということで電気自動車や、電気を使う様々な機器の投資を促進しています。
したがって需要は一時で終わるのではなくて長く続くのではないかということが見られています。
ここに対して一部の中国の投資家が銅を先回りして買っていたというような報道が日経新聞なんかにも書かれていました。
実需がこれから増えるのではないか、それだったら株価は価格は上がるから今のうちに仕込んで、その仕込む資金自体が商品価格を上げるということに繋がって、結果価格が高騰したという話になります。
つまり、実需と思惑が合致した上昇であるということができます。
これを示すような記事も日経ビジネスに出ています。
環境重視型の経済への移行が加速するにつれて銅価格も上昇基調を強めている。EVや風力発電などクリーンエネルギー向けに需要が高まるも供給が追いついていない状況が背景にあった。供給不足解消には新たな鉱山開発が求められるも困難やリスクも多く投資家は及び腰になっている
需要が増えて供給が少ないということになると、ますます需給が逼迫するので、価格はどんどん上がることが想定されます。
Next: 「銅」の需要は伸びる一方。何に使われている?
引く手あまたの「銅」
改めて振り返ってみたいのですが「銅」はどんな用途に使われるのかというと、これは電子部品に使われるコネクターです。
それから半導体、さらには一般家庭での冷蔵庫やエアコンなんかにも使われます。
それに自動車、さらには建築などにも非常に様々使われます。
銅は電気を非常によく通して、さらには加工しやすい、見た目も美しいということで、本当に使い勝手の良い物です。
これに加えても5Gだったりすると海底ケーブルにも大量に使われるので、ますます需要の増加というのも想定されます。
そして、銅はどこで取れるのか?ということですが、以下は銅鉱石の生産国と量です。
実はかなり特徴的で偏った分布ということがあります。
青で示されているのがチリで、オレンジがペルーです。ここでおよそ半分近い生産量を占めています。したがってこの国々の資源に対する交渉力というのが強かったりします。それに対して中国とか米国なんかでも一部取れます。
これらの資源は非鉄メジャーと呼ばれる世界的な大企業がこの権益を抑えていたりします。
一方で、以下が消費ですが、これもまた偏っています。
青で示されているおよそ半分の消費量を占めるのが中国ということになります。これは建築とか住宅を作るに際してやはり大量の銅を使うので、そこで需要が盛り上がっているということもありますし、また中国というと世界の工場ですから、あらゆる電気製品の多くが中国で作られています。
そこに対して中国で使う物も、アメリカで使う物も、日本で使う物も中国で使用するということで、やはり中国での消費量が非常に多いということになります。
直近では中国でも人民元建てで銅の先物取引ができるようになったということで注目も非常に高まっています。
そんな中で中国のお金を持った投資家が大量に銅を買い付けたということが上昇要因となっていて話題となっています。
銅のビジネスモデルは?
銅のビジネスモデルですけれども、多くの資源について言えることなのですが、「上流」「中流」「下流」があります。
まず上流というと原料となる石を掘ってくるという鉱山の仕事というのがあります。もう1つに、リサイクルなどもあります。
次は中流です。精錬と言って、もともとは石でしかないのですが、それを地金、利用できる金属の精度の高い物にするということがあります。さらには加工です。この地金を銅線とか様々な部品に加工して商品に使ってもらうというようなビジネスがあります。
日本はやはり自国で資源が取れるわけではないので、その資源メジャーにもなっていませんから、どちらかというと中流下流というところで頑張っています。
一方では上流にも少しでも進出しようという動きが見られます。やはり価格が上がるとなるとその恩恵を強く受けるのはこの上流です。
掘るコストというのは基本的には変わらないのですが、それに売る価格が変動してそれが上がったということになったら当然利益率は高くなるので、自分で掘れた方が良いといういうことになります。
またこの掘るというのも実は結構リスクが高くて、掘ったら出てくると思っていたら、実際には出てこなかったということもあります。
また新興国で掘っていたりするので揉めことなんかもしょっちゅう生じてリスクが高いです。リスクを分散する為には色んな会社でこの鉱山の権益を分けて、何%ずつという形で保有して、その配当を受けるというようなビジネスも一部の企業では行っています。
Next: 銅の恩恵を受ける「3銘柄」とは?
銅の恩恵を受ける「3銘柄」
そんな中、この銅の上昇の恩恵を受ける銘柄という形で、タイプ別に分けて3つあげさせていただきました。
製錬は「三菱マテリアル」、探掘は「住友金属鉱山」、そして権益が「三菱商事」です。
1つずつ見ていきたいと思います。
<三菱マテリアル>
三菱マテリアルは銅を中心として様々な非鉄金属ないしセメントなどを精錬とか加工している会社になります。
三菱マテリアル <5711> 日足(SBI証券提供)
基礎素材銅やセメントの精錬加工から金属加工、超硬切削工具高機能粉末電子材料の製造販売、資源循環システム、環境リサイクル分野までしています。
こういった業界に関して大手ということもありまして、バランスが良いというところもあります。セグメントを見ても金属や高機能製品、セメントという形でバランスを取った構成となっています。
ただ業績としてあんまりパッとしなくて、売上高は上がったり下がったり繰り返しながら、結局は横ばい、利益もあまり冴えずに営業利益率もほぼ5%以下というような形に収まっています。
利益率が低いのはこの会社に限ったことではなくて、掘削するところから銅の原石を買ってきて、それを精錬するのですが、やはり掘ってくるところの力が強いので、それにわずかなマージンを乗せてさらに売ります。
もちろんさらに加工してより精度の高い物にしたりすると付加価値が上がるのですが、やはりあの物量という観点で見ればそこまで強くありません。
一方で過去の推移を見ると銅価格の上昇というのを恩恵を受けていまして、この2008年頃というのは石油を始め様々な資源価格が高騰した時だったのですが、利益に関してもかなり高いものとなっています。
これと株価を合わせてみますとその2008年頃にはやはりかなり大きく高騰しているということがあります。
一方でこの精錬のビジネスモデルというのも結構難しいです。
ずっと価格が伸び続けるなら良いのですが、決してそんなことはなくてこれはつまり物を仕入れて、それに付加価値を付けて売るビジネスモデルなので、最初は安い価格で買っていた物を時間差で高く売って、その分利益が一時的に増えるということはあるのですが、やがてはこの仕入れ価格というのも上がってしまうので、今度はその分利益が削られるということになってきます。
そしてその資源価格の下落がそのタイミングで来てしまうと、今度は逆で価格下落と高い仕入れ価格というので大きな赤字を記録してしまうということが往々にして起きます。
実際にこうやって見ると大きなブームが来た後は、今度は逆に大赤字を記録するというような状況にもなっています。
なので、かなり一時的な上昇をを目指す銘柄ということになります。
条件としてはやはり銅価格の上昇があって、しかもエグジットのタイミングを見極めなければならないということです。
なので、かなりハードルは高い投資かなという風には考えます。
ましてもともと利益率が高くないですし、成長し続けている訳でもないので、なかなか大変ということはあります。
1つ可能性としてあるならば、直近に中期経営計画を出しました。利益が低いと言いましたけれども、その中には大企業に特徴的なのですが、収益性の低いビジネスも結構含まれていたりします。
それらを売却してそして付加価値の高いところに集中することができれば、利益率も上げていくということが想定できます。
そちらに期待するなら長く持てる銘柄とも言えるのですが、ただ過去の推移を見る限りではそういった銘柄ではありません。
投資家として冷静になれば、やがて赤字になってしまうということは見えてくるのですが、ただ長期的に上昇し続けるなら、しばらく上がり続ける可能性もあるのかなというところではあります。
Next: 銅の恩恵を受ける銘柄「住友金属鉱山」の将来性は?
<住友金属鉱山>
2つ目は、住友金属鉱山です。
住友金属鉱山 <5713> 日足(SBI証券提供)
この住友金属鉱山も三菱マテリアルと同じように、精錬も行っているのですが特徴的なのは日本にいながらにして探掘の方にどんどん乗り出しているということです。
というのも元々日本で金の鉱山を掘っていたり、創業が1590年という歴史のある会社で、この探掘というところに関しては強みを持っています。
このように資源精錬材料のコアビジネスにより、世界各地で資源開発、非鉄金属精錬、それから電子材料、機能性材料の製造販売なんかを行っています。
先程の三菱マテリアルはどちらかと言うと国内での売り上げが、6割程度という形だったのですが、この住友金属鉱山は海外でがんばっている会社ということができます。
規模として非鉄資源のメジャーには敵わないですが、小さいながらに特徴的な形で強みを出そうという風な形でやっています。
業績もこちらも決して増え続けているというものではないのですが、利益率としては三菱マテリアルよりも高く、資源採掘に乗り出しているというところに恩恵を受けられています。
さらに探掘の方はリスクもありますが、利益が取りやすいということで、銅の価格上昇に対する期待というのは強い会社ではないとかと思います。
それが株価にも出ていまして、6ヶ月のチャートで見ると、やはり3,000円そこそこというところから6,000円近くにまで上がってきました。10年で見ても、この10年で一番高い水準というところにまで来ています。
銅の価格上昇にベットするなら、ここを買っていけば良いのかなというところではあります。
ただしもちろん駄目だった時は当然それにしたがって下がるので、そういった状況も想定しなければならないということは頭に置いておいてください。
<三菱商事>
3つ目が三菱商事です。
三菱商事<8058> 日足 SBI証券提供
三菱商事に限らず、商社に関しては銅鉱山に出資していたりします。
商社自体が自ら掘るというわけではなく、先程鉱山をみんなでシェアして共同保有して、その配当を受けるという説明をしました。商社はそういったビジネスモデルをやっていまして、三菱商事もその例外ではありません。
商社の中では伊藤忠商事だけがどちらかというと生活用品とかそっちの方でがんばっていて、他の商社は逆に言えば三菱商事、三井物産、それから住友商事、さらには丸紅、この辺りはやはり資源に偏るところが大きいです。
三菱商事もその一角で、一番強い会社という風にに言われています。
もちろん資源だけではなく、様々な事業を取り扱っているのですが、銅の価格が上昇するなら全力で受けるという訳ではないのですが、一部で受けられる可能性が高い会社ということになります。
この会社の特徴としてはバリューということです。
利回りが4.42%もありましてPERは22倍というところで、今はコロナで落ち込んでいるところなんですが、例えば2019年3月期の1株当たり利益が400円出た後というところぐらいまで戻ると、今の株価が3,035円ですから、今PERとして10倍を下回る8倍ぐらいのところになります。
割安でしかも配当が高いということになると大きな上昇はないにしろ、安定性を求めるなら悪くない投資だということができます。
当然、資源確保の情報で株価上昇しているということもあるのですけれども、持っていて悪い銘柄ではないという風に思います。
Next: バフェットも買った日本の5大商社。コモディティに注目
バフェットも買った日本の5大商社
実は、昨年にかけてウォーレン・バフェットが日本の5大商社を買い付けて、今は資源価格の上昇もあって、プラスのリターンをバフェットも得ているということになっています。
今後この資源価格の上昇というのは、経済全体から見ても大きな意味合いを持ってくるところになってきますので、ぜひ銅を始め、様々な価格推移というところを見ておいてください。
いよいよ資源価格が上がりすぎると、我々が買う商品というの価格もどんどん上がっていってしまいます。
それは政治としてはインフレになってしまうわけですが、それを放っておいて良いのか、金融緩和を続けたら我々な物価が上がってしまうのではないかということを懸念して、今度は金融の引き締めに舵を切るのではないかということも想像できるわけです。
そういった意味で、経済全体への影響も非常に大きいところです。
ぜひ、このあたりから勉強して行ってみてください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年3月8日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。