バイ・アンド・ホールドを基本とする長期投資では、銘柄選択が最大の鍵を握ります。では、どうすれば「売る必要のない」生涯のパートナーと出会えるのでしょうか。今回は、つばめ投資顧問代表・証券アナリストとして活躍し、マネーボイスの人気著者でもある栫井駿介氏の連載『誰でもバフェット投資術 ~ バイ・アンド・ホールドで人生100年時代の資産を築く』第4回をお届けします。
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
衰退産業は厳しいが、成長産業もバラ色じゃない。どこを探す?
株主は事業家を信じてついていく「パートナー」である
バイ・アンド・ホールドを基本とする長期投資では、銘柄選択が最大の鍵を握ることは言うまでもありません。個人投資家の資金は限られていますから、大きく伸びる銘柄を保有し、少数精鋭を貫くことが高いリターンにつながります。
機関投資家は多くの銘柄を持つことで効果によりリスク分散を図っていますが、それは必ずしも最上の戦略とは言えません。
世界の長者番付を見れば明らかです。彼らの財産はほぼ全て自身が経営する会社の自社株であり、見方を変えれば一つの銘柄をずっと持ち続けたことによって作り上げたものです。分散によって巨額の富を築き上げた人を私は知りません。
事業家が自身の会社を大きく成長させるのにあわせて、株主も資産を成長させられたらどんなに素晴らしいことでしょう。投資は結局のところ他力本願であり、投資家ができることは事業家を信じてついていくことに尽きます。
こう考えると、信頼している会社の株式を途中で売ってしまうことがいかに無益なことかおわかりいただけるでしょう。株主は、事業家のパートナーであるべきなのです。
過去を知り、未来を想像して「ストーリー」を組み立てる
投資家は、株式の価値に投資します。価値の源泉になるものは将来のキャッシュフロー、すなわち利益です。
将来の利益をいかにして増やすかを語るものが「ストーリー」です。多くの企業が利益を増やすために様々な戦略を日々実行しています。利益を増やすストーリーがあるからこそ、私たちは事業家のパートナーとなり株式に投資できるのです。
逆に言えば、ストーリーも描けない会社に投資することは時間とお金の無駄でしかありません。
投資家が企業を分析するのは、ストーリーを知り、その成否を検証するためです。企業がどのようにして利益を増やそうとしていて、それが現実的に可能なのかを考えることが株式投資の最大の醍醐味です。分析の材料となるのは、過去の財務指標やビジネスモデルです。
ただし、過去の業績指標を小数点以下まで精緻に割り出すことが未来を見通すことに役立つとは思えません。数値は上二桁だけ認識していれば十分でしょう。投資において重要なのはいつも未来のことです。過去の分析は傾向を知り、未来を想像するのに役立てるために行います。
継続性のあるビジネスモデルを持っているか?
過去と未来をつなぐものがビジネスモデルです。ビジネスモデルとは、企業が今どうやって儲けていて、これからどうやって儲けるかの仕組みを表します。ビジネスモデルの認識なくして、企業を分析したことにはなりません。
問題はそのビジネスモデルの継続性です。いま大きな利益を上げている企業があったとしても、継続性がなければ会社の価値は安定しません。
例えば、ソーシャルゲームでヒットを飛ばして一時的に大きな利益を出した企業があったとしても、ヒットを生み出し続ける仕組みがなければ、単なるラッキーとしか言えません。そのような会社に投資することは、長期投資では決して理にかなわないのです。
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衰退産業は厳しいが、成長産業もバラ色じゃない
多くの人は、投資のための分析と言うと、対象企業を分析しただけで終わってしまいます。しかしそれだけでは片落ちと言わざるを得ません。なぜなら、企業が成長できるかどうかは、属している業界の動向に大きく左右されるからです。
どう考えても市場が縮小する業界、例えば写真フィルム業界で事業を行っていたとしたら、なかなか成長するのは難しいでしょう。
米コダック社は、衰退する写真フィルム業界にとどまり破綻してしまいました。逆に、富士フィルムのように危機感から医療分野などの成長産業へ進出して成功したケースもあり、どの業界に身を置くかがいかに大切かがわかります。
ただ業界が成長していればいいというわけでもありません。成長している業界には数多くの競合が参入してきます。すると、価格競争の結果どの企業も利益を得られないというような状況になってしまうことも少なくありません。
また、勃興したばかりの市場においては、市場がどこまで伸びるかというのは未知数です。もしかしたら今がそのピークなのかもしれず、直近の業界の成長率だけをあてにすることもできないのです。
何より成長産業の企業の株価は割高であることがほとんどです。割高な銘柄に投資してしまったら、いくら長期で持っていたとしてもリターンを上げることは難しくなります。顕在化した成長産業への投資はこのようなジレンマを抱えているのです。(本内容は、ジェレミー・シーゲル著『株式投資の未来』(日経BP社、2005年)に詳しく書かれています。)
では、どこを探すべきか?
成長産業で難しい投資を迫られるぐらいなら、確立した業界で成長企業を探す方が賢明かもしれません。例えば、日本のアパレルは衰退産業ですが、市場規模は9兆円にも及びます。衣食住の衣の部分ですから、なくなってしまう可能性はほとんどないでしょう。
アパレル産業で大きな成長を遂げたのがファーストリテイリング(ユニクロ)です。ユニクロは停滞するアパレル産業においてぐんぐんとシェアを高め、世界的な巨大企業に成長しました。国内の市場規模が大きかったからこそなし得たことでしょう。
ファーストリテイリング <9983> 月足(SBI証券提供)
ユニクロは日本で培ったビジネスモデルをもとに、今は巨大で成長性のある中国をはじめとする海外市場での成長を目指しているのです。企業が成長するには、自ら身を置く市場を開拓して行かなければなりません。
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短期のブームではなく、長期のトレンドを見極める
ユニクロが大きく成長したのは、長期的なトレンドに乗ったからです。日本はバブル崩壊後長期にわたってデフレの時代が続きました。ユニクロはその波に乗り、当時最先端であったSPA(製造小売業)方式を取り入れて、安価で丈夫な製品を提供したのです。
デフレの大元にあったのが、少子高齢化です。高齢者は消費を減らしますから、供給が需要を上回る需給ギャップが発生し、物価は下落します。バブル崩壊後の不景気もその傾向を後押しし、長期トレンドになったのです。人口構成は将来を見通す上で最も重要な要素となります。
投資家が見極めなければならないのは、このような長期トレンドと、単なる短期的なブームの違いです。短期的なブームはすぐに終わってしまうため、それに乗った企業の利益も長続きしません。しかし長期的なトレンドに乗った会社なら、毎年毎年利益を伸ばし続けるでしょう。
長期投資で肝要なのは目先のトレンドに乗ることではありません。社会の変化を見つめ、今後10年、20年にわたる大きな動きをとらえ、それを裏付けとしたストーリーを持つ会社を持ち続ければ良いのです。
長期トレンドに乗った会社に投資していれば、株主はトレンドに沿ってストーリーが進んでいくのをただ確認していれば良いのです。株価の変動はもちろんのこと、四半期ごとの業績や、毎日のニュースに右往左往する必要などありません。
株価は短期的には価値とは関係なく動きます。しかし、長期的には企業の本質的な価値、すなわち継続的な利益に追随します。株価が上がらなかったり、下がってしまった時には、長期的に見れば投資するタイミングのチャンスが広がったと考えるべきなのです。
利益を増やし続けられる企業なら、相場の上昇局面では必ず大きく株価は伸びるでしょう。それを待てるかどうかが、長期投資で成功するための鍵を握るのです。
「情熱と冷静のあいだ」で生涯のパートナーを探す
長期投資はストーリーに投資するものです。ストーリーはいわば事業家の夢であり、可能性は無限大に広がります。もちろん事業家はその可能性に向かって全力で邁進するでしょう。
投資家が夢に付き合うのも一興ですが、それだけでは単にダーツを投げることと変わりません。全ての事業家が利益を素晴らしいビジネスを構築できるとは限らないからです。ストーリーの良し悪しを見極めることこそが投資家に求められる能力と言えます。
ストーリーの良し悪しを見極めるためには、数字に敏感でなければいけません。例えば、市場規模が1,000億円の部品メーカーが1兆円の売上高を目指すと言っても現実感がありません。適切な数字を反映した地に足のついたストーリーが求められます。
一方で、悲観的にばかりなってもいけません。いつまでたっても投資に踏み切れないようであれば、目の前にあったはずの機会を逃してしまいます。投資は未来のことにかけるわけですから、確実なことなど何一つありません。成功してきた投資家も、不確実なものの中で可能性に賭けたからこそ、その先の成功があったのです。
ストーリーを見極めるために投資家にとって必要な素養は、「冷静」と「情熱」の両方を兼ね備えることでしょう。このどちらを欠いても投資で成功し続けることはできません。
Next: 具体的に「生涯のパートナー銘柄」と出会う方法は?
「生涯のパートナー銘柄」と出会う方法
どんな投資家も、最初から完璧にストーリーを見極められることはありません。できるだけ多くの会社を見て、それぞれがどのようなストーリーを描けるか、頭の中で想像してみることが第一歩です。
想像したら、それをメモに書き出してみましょう。そして、できることなら少しでもその会社に投資してみて、1年、2年後にストーリーの進捗状況を確認してみます。思った通りの結果になっていたらストーリーが合っていたということであり、そうでなければ何が違っていたのか振り返る必要があります。
この動作を繰り返すことで、良いストーリーとはどういうものなのかを認識することができるようになります。そうしているうちに、あなたの資産を大きく増やしてくれる「パートナー」となる銘柄に出会うことができるでしょう。その意味で、長期投資の銘柄探しは婚活に似ています。
生涯のパートナーとなる会社を見つけたら、あとはその会社を信頼し、ストーリーが達成されるのをひたすら待つだけです。そこでは日々の株価の動きは関係ありません。気にするべきなのは、更新される業績情報と、事業の将来性だけです。考えれば考えるほど、あなたは事業家と同じ方向を向き、名実ともにパートナーになることができるでしょう。
あなたも、ぜひ今からストーリーに投資して、生涯のパートナー銘柄を探してみませんか。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年11月15日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。