北極圏に眠る地下資源をめぐって開発競争が起きており、とくに目立つのは中国の急進出です。警戒する各国を尻目に、さらに宇宙開発へも全力で突き進む中国の狙い紐解きます。(『らぽーる・マガジン』)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年3月4日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
北極のグリーンランドは歓迎?中国がさらに力を付け始めている…
地球温暖化が呼び覚ます北極海の価値
地球温暖化…これが眠れる氷海「北極海」を呼び覚ましました。氷の下に眠る、天然ガスや石油など豊富な資源が、大きなビジネスのターゲットとなったのです。
米国地質調査所が2018年公表した石油・天然ガス資源の埋蔵量に関する報告書によれば、未発見で技術的に採掘可能な世界資源のうち約22%が北極圏にあるとされています。世界全体の未確認天然ガスの30%、石油の13%が眠ると言われています。
北極を「第2の中東」と表現されることもあり、石油埋蔵量は900億ガロン、液体天然ガス埋蔵量は440億ガロン、世界の4分の1の石炭埋蔵量があるとも言われています。
地球温暖化は、これら天然資源存在を表に出しただけでなく、海氷面積が縮小したことにより、輸送航路としての価値も高まってきました。極東と欧州を結ぶ場合、インド洋〜スエズ運河を通る航路だと2万キロに対し、北極海航路は1万3,000キロと6割強しかなく、輸送時間も10日間ほど短縮することができます。
北極海をめぐる経済的価値(権益)は、「北極海航路」と「地価資源」にあると言えます。
北極圏開発に「中国」が急進出
ロシアは早くから北極圏開発に乗り出していて、2011年には北極海中央部を自国の大陸棚だと主張していました。2016年には世界最大規模の原子力砕氷船を進水させ、北極海の港の増強も進めてきました。またロシア海軍は北極海とオホーツク海に戦略原潜を潜行させており、ロシアにとっては軍事の面でも、北極海はとても重要なものになっています。
その北極海に、急速に存在感を高めているのが中国です。
プーチン大統領が、安倍総理に平和条約締結を持ちかけた背景には、中国が北極海への権益拡大に動き出したことも、大きな要因となっているようです。
ロシアは、中国との経済力の差が拡大していて、ロシア軍装備の老朽化もあり、日本との協力関係は不可欠と思ってはいるようです。
Next: グリーンランドも投資対象に?中国の「氷上シルクロード」計画
中国による「氷上シルクロード」計画
中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」に関しては、以前に当メルマガで取り上げました。
「一帯一路」には、「陸のシルクロード」と、南シナ海を通って南下する「海のシルクロード」があります。そして実はもう1つ、地球温暖化で氷が解けており、船舶の通航や資源開発が容易になった北極海で権益拡大をめざす「氷上のシルクロード」計画があるのです。
中国外務省は2018年1月26日、白書「中国の北極政策」を発表し、北極海における天然資源や新航路の開拓に意欲を示しました。
これまで北極圏の開発は、沿岸国のアメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマークが中心となってきました。そこに中国が、新たに参入してきたのです。
中国は白書で「北極圏に最も近い国の1つ」と自国を位置づけ、経済や環境など幅広い分野で北極の利害関係国だと明示しています。具体的に「企業が北極海航路のインフラ建設や商業利用に参加することを奨励する」「企業が石油や天然ガス、鉱物資源の開発に参加することを支持する」と盛り込んでいます。
中国が狙うのは「グリーンランド」
中国が狙いを付けているのが「グリーンランド」です。
国土の大部分が北極圏に属するグリーンランドは、デンマーク領ですが、自治政府があります。日本のおよそ6倍の面積がある世界最大の島ですが、人口はわずか5万6,000人ほどで、国土の80%以上が氷に覆われています。
その氷の下には、希少資源のレアアースなど豊富な天然資源が眠っていることが確認されています。
中国は、グリーンランドへの投資を加速しています。
実は北極には、平和利用を定めた南極条約のような国際ルールがまだ整備されていないのです。新たな国際ルールは、米国やロシア、デンマークなど8つの北極圏国で構成する「北極評議会」が議論を主導していて、中国は2013年に日本や韓国などとともにオブザーバーとして議論に参加しました。
北極圏の活用策や課題を議論する国際会議「北極サークル」の場では、中国は、伝統舞踊や豪華な中国料理で参加者をもてなすほどの力の入れようです。中国はアイスランドのオーロラ観測所にも資金提供するなど、さまざまな分野での投資を北極圏の国々に対して行い、地域での存在感を高めています。
Next: グリーンランド側も歓迎?中国がさらに力を付けている
中国のグリーンランド支配を警戒する国も…
すでに中国は、グリーンランドの3か所で、レアアースやウランなどの開発に投資していて、グリーンランド側も中国からの投資に前向きです。
グリーンランドは、デンマークからの独立を悲願としているのですが、目立った産業がなく、行政予算の半分をデンマーク政府からの補助金に頼っているのが実情です。それゆえ、中国からの投資によって経済的に自立できれば、独立への道が開かれるとの思いが広がっているようです。
グリーンランド自治政府は、島にある3つの空港の建設工事の入札で、最終候補のひとつに中国の企業を選んだことに対し、デンマーク政府は危機感を覚え、自治政府への資金提供を約束して、事実上、中国企業の参入を阻止した経緯があり、デンマーク政府は中国の北極海進出を警戒しだしてきています。
前述の「北極サークル」の会議でも、中国の北極圏開発の行方を議論する討論会が開かれ、中国に対する懸念の声が聞かれました。資金援助で中国への債務を膨らませて、中国が実質支配する…マイク・ペンス米副大統領が非難した、中国海外進出のやり方そのものですね。
それでも、中国外務省は「グリーンランドに投資できないなら、中国はほかの投資先をいくらでも見つけられます。ここの未来を共有したいという、中国の活動は止められません…」と発言しています。
この中国の動きに対しアメリカは、グリーンランドに空軍基地を設けるなど、安全保障上も重要な地域だとの認識があるため、そこに中国が過度に進出することへの警戒感を強く示しています。
ロシアは20年間閉鎖していた北極海沿いの軍事基地を2013年に復活させて、北極圏への関与、プレゼンスを強めようとしていました。
中国は国産砕氷船「雪竜2号」を上海で進水、遠洋型の海軍力増強も着々と進めています。
ロシアが択捉島に地対艦ミサイルを配備し、北極海航路上でミサイル発射演習を繰り返してきたのは、中国に対する牽制(けんせい)の意味合いがあるとも言われています。
対立だけでなく協力も
2017年12月8日、北極に面したヤマル半島で「ヤマルLNG(液化天然ガス)」が正式稼働し、記念式典にはプーチン大統領も姿を見せました。「ヤマル」は北極最大のLNG開発プロジェクトで、中国も資金協力する中ロ協力案件です。
2019年に全面竣工した後、3本の生産ラインで毎年中国に400万トンのLNGを供給しています。この量は中国が輸入するLNG総量の8%に相当し、中国はここを「氷上シルクロードの重要拠点」と位置付けています。
ユーラシア研究所によれば、ヤマルLNGプロジェクトを手掛けるのは、主に天然ガスと液体炭化水素の探鉱・生産・精製・販売を手掛けるロシア民間企業である独立系のノバテクで、フランスの石油大手トタルや、中国石油天然ガス集団が、プロジェクト会社のヤマルLNGに出資し運営を行っています。
権益はノバテクが50.1%、トタルが20%、CNPCが20%、中国政府のシルクロード基金(Silk Road Fund)が9.9%を保有しているとあります。
プラント建設には、日本企業は日揮と千代田化工建設が請け負っています。また、制御システムおよび安全計装システム供給には横河電気が、LNG輸送サービスには商船三井がかかわり、丸紅も関与しています。2016年日ロ首脳会談で安倍総理がプーチン大統領と約束し、ファイナンスでは、国際協力銀行が融資してます。
米国政府は2015年、石油メジャーのシェルに北極海での石油・天然ガス開発を承認、試掘を許可しました。
またロシア最大の石油国営会社「ロスネフチ」は2011年、北極の石油開発で米石油大手エクソンモービルと開発提携で合意、ロスネフチは、中国企業との間でも北極陸棚プロジェクトについてさまざまな協議を進めています。
北極資源をめぐる米中ロ3国の争奪はすでに始まっていると言えます。
Next: 中国の野望はついに「宇宙」へ。原子力スペースシャトルは平和利用されるのか…
2040年原子力宇宙スペースシャトル開発
さらに中国の野望は、宇宙へと広がっています。
2030年までに米国やロシアと並ぶ「宇宙強国」入りを掲げる中国の新たな宇宙計画が明らかになっています。今後約20年をかけ、2040年ごろまでに原子力スペースシャトルを開発するというのです。
中国は、宇宙開発の原則として「平和的な発展」を主張していますが、その狙いは宇宙空間の軍事力を強化し米国を凌駕することにあるとも見られています。中国のスペースシャトルからミサイルが発射され、米国の軍事衛星を破壊する…宇宙衛星には、このような軍事的側面もあるようです。
宇宙計画では、2020年までに低コストの中型運搬ロケット「長征8号」を初飛行させ、全世界に向けて多様化された商業衛星打ち上げサービスを提供します。
2025年前後には再利用可能な準軌道飛行運搬ロケットを開発し、準軌道飛行による宇宙旅行が可能となり、2030年ごろには大型運搬ロケットの初飛行に成功、有人月面着陸や火星でのサンプル採集と地球帰還に必要な運搬能力を提供する計画となっています。
2035年ごろには運搬ロケットの完全再利用化を実現する予定です。
2040年前後になると、原子力を動力源とするスペースシャトルの技術が大きく進展し、小惑星での資源採掘や宇宙空間での太陽光発電が可能となる計画です。
2045年には、宇宙空間への移動と運輸方式に「革命的な変化」が生じる計画で、静止衛星と地上をケーブルや昇降機などでつなぐ「宇宙エレベーター」を実用化、さらに太陽系内の惑星や小惑星、彗星などへの探査が常態化し、宇宙空間の利用が高度成長期に入るとのことです。
本当に平和的に使われるのか…
問題は、軍事目的での宇宙開発の要素です。
中国はすでに軍事作戦に利用できる中国版GPS「北斗」の整備を急速に進めているほか、衛星をミサイルで破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)の実験にも成功しています。
中国による通常兵器や核兵器の宇宙配備に対しても、欧米諸国は警戒感を高めているとのことです。
原子力衛星に関しては、かつて原子炉を搭載した旧ソ連偵察衛星「コスモス954号(電力源にウラン235燃料使用)がカナダに墜落し、放射能を帯びた破片が広範囲に飛び散るという事件がありました。
中国は毛沢東時代に「両弾一星」のスローガンが打ち立ててから、宇宙開発は進められてきています。「両弾」とは原子爆弾(のちに水素爆弾)と大陸間弾道ミサイル(ICBM)、「一星」とは人工衛星を意味します。
そういえばドナルド・トランプ大統領が、2018年6月18日に開催された国家宇宙委員会の会議で、国防省に、アメリカ軍6番目の部門となる宇宙軍の創設を指示したというのがありましたね。
軍事面においては、宇宙空間とサイバー空間では、米国よりも中国のほうが優勢と言われています。
つまり米軍は、この両空間では中国軍に負けるということで、それゆえトランプ大統領は、サイバー覇権競争では中国に負けられないことを強く意識していて、今回の対中貿易摩擦という形で、通信技術における中国の優位性を排除したかったのでしょう。
マイク・ペンス米副大統領が指摘する「資金力」で他国を支配する中国姿勢を非難し、これ以上の中国マネーの流布を阻止するとともに、サイバー空間での圧倒的優位性を強引であってもおさえたいというのが米国の本音でしょうね。
さらに宇宙空間での優位性を確立する前に、内政干渉の批判を承知で、中国構造問題に踏み込んできたのかもしれませんね。
恐るべし、中国…ですね。
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・やや「リスク・オン」の様相かな…/中国の野望「北極海開発」と「宇宙戦争」(3/4)
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