携帯事業に新規参入する楽天は、サービス本稼働時期を2020年春と半年間延期しました。業界全体が違約金上限1,000円など囲い込み防止に動くなか、3社独占状態に風穴を開けられるのでしょうか。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年9月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
三つ巴が都合がいい?世界を知らずに高い料金を払い続ける消費者
日本の携帯料金は高いまま
これまで3社寡占状態だった携帯事業において、楽天が参入します。「携帯電話の“民主化”」。楽天の三木谷社長は携帯事業参入にあたり、こう強調していました。
日本の携帯電話市場に最初の殴り込みをかけてきたのがソフトバンクでした。3,400億円を投じて日本テレコムを買収したのが2004年、1兆7,500億円で英ボーダフォンの日本事業を買収したのは2006年のことです。
ソフトバンクが参入して以降、携帯電話市場には大きな動きが見られませんでした。ここ数年は、格安SIM事業者が増え、市場に風穴が開くかと思われたが、このサービスも期待ほどの伸びは示していない状況です。
結局は3社寡占状況が長く続き、携帯料金は、競争による低下は止まり、世界で見ても日本の携帯料金は高いままになっています。
3社独占状態で競争もない
当メルマガの2018年9月3日号で「携帯電話料金4割下げ余地発言(菅官房長官)」というテーマを取り上げましたが、その中で…
「ちょうど良いバランス」
誰にとって良いバランスなのでしょう。少なくとも利用者にとってではないことは容易に想像できます。
「企業間競争を促して携帯料金を下げる」
自由経済における鉄則ですが、ずっとビッグ3と呼ばれる3社が市場を牛耳っています。
当時は複数の携帯事業会社があったので、競争による料金値下げがなされると政府は判断していたのですが、いまは3社独占状態であり、料金設定も事業者側有利に進められることになっていることが問題とされていました。
政府は事業会社間競争による携帯料金値下げを期待していたのですが、その思惑が外れていることに苛立ちを覚えているようです。
2012年6月に3.9世代のLTE周波数を4社(NTTドコモ、auモバイル、ソフトバンクモバイル、e-モバイル)に割り当て競争を促したところ、割り当て直後にソフトバンクがe-モバイルを買収(Y-モバイル)したことにより、政府の企業間競争の目論見が外れた格好になってしまいました。
「このことを受けて政府は2007年と2015年に、ユーザー乗り換えをやりやすくしたり、わかりやすい料金形態にするための端末料金や通信料金の分離、格安スマホ導入、SIMロック解除など、とにかく携帯電話会社同士の競争を促すことで、消費者への料金値下げやサービス向上を促すようにしてきました」と指摘しています。
今回、3社寡占状態に殴り込みをかけたのが、三木谷社長率いる楽天なのです。
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楽天は自らインフラを所有するMNOを目指す
携帯電話のサービスには大きく分けて2つのカテゴリーがあります。
・MNO:移動体通信事業者
・MVNO:仮想移動体通信事業者
前者は、通信回線や基地局などをすべて自前で用意し、自社のインフラを使ってサービスを提供する事業者で、これは設備産業として大きなコストがかかります。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は前者に該当します。
後者は、自社では何も保有せず、インフラを持つ事業者から回線や基地局などを借り受けてサービスを提供する事業者で、b-mobile(日本通信)やフリーテル(旧プラスワン・マーケティング、現楽天)、IIJmio(インターネットニシアティブ)といった事業者は、これらの3社から回線を借り受けてサービスを展開しているのでMVNOということになります。
格安SIMを提供しているのは、たいていがこのMVNO事業者となります。
この両者の関係にはある取り決めがあり、回線を所有する事業者が、MVNOが不利になる行為を行うことは競争政策上、厳しく制限されています。そうでないと、MVNO事業者は自由にビジネスができなくなりますからね。
ただし、自前の回線でない以上、MVNO事業者は価格設定やサービス面において、100%の自由度を発揮することができないという弊害もあります。
楽天の格安SIM事業(楽天モバイル)や、買収したフリーテルは、主にドコモから回線を借りてサービスを提供しています。
楽天はフリーテルの買収で格安SIMのシェアを広げることに成功したわけで、今回楽天は、わざわざ大きなリスクを取って、自らインフラを所有する事業者になることとしました。
3社寡占モデルが一番都合が良い
前述の通り、総務省がLTE周波数配分の際、4社への振り分けで企業間競争を促すはずが、配分後にソフトバンクがe-モバイルを買収したことに激怒し、e-モバイルは、ソフトバンクモバイルではなくヤフー傘下にしたのですが、実質、孫正義氏が牛耳っているのは同じで、結局はこのときから携帯事業業界は3社寡占状態がずっと続くことになりました。
3社寡占モデルがちょうど良い状態……このことで携帯料金は高いままで、ずっと維持されてきました。
NTTドコモで「iモード」を立ち上げ、いまはドワンゴ社長となっている夏野剛氏によれば、ガラ系の時代と違ってスマホの時代になり、スマホはさほど品質や機能に差が出るものではなく、ましてや3社が同じiPhoneを取り扱っている状況では、ユーザーにとってはどこのiPhoneを使っても性能に差がないので、結局は3社のシェアは均等に3分の1ずつになるのだと指摘しています。
ドコモとau(KDDI)の後発だったソフトバンクは、シェアが3分の1になるまでは価格競争を仕掛けて投資を盛んに行いましたが、シェアが3分の1になった時点で投資をやめ、携帯価格は安くなることなく高止まりすることになりました。
携帯事業において、さすがに1社独占は独禁法の手前もあり、2社でも競争原理としては市場の同意を得られないでしょうが、3社だとそれなりに競争原理が働くと見られる、ちょうど良い状況となっているというのが、マーケット分析のプロの見方です。
Next: ソフトバンクは携帯に革命を起こさない? 3社独占のぬるま湯で稼ぎ続ける
ソフトバンクは「投資会社」
このタイミングで、ソフトバンクは子会社であるソフトバンクモバイルを上場させました。市場関係者が嫌う「親子上場」を大手を振ってやってきました。
孫正義氏は携帯事業に飽きたのではないか……ソフトバンクモバイル上場を聞いた時の第一印象です。携帯事業を、孫氏の手から切り離したと思われます。
ソフトバンクを事業会社と思っていたら大間違いで、昔から投資会社です。
いまはサウジアラビア資本と手を組んで「ビジョンファンド」を展開していますが、もともとスタートアップ企業や成長企業をいち早く見つけて投資し、成長し軌道に乗ったところで売りぬいて、次のスタートアップ企業に投資をするというのが、孫正義氏のファイナンス手法です。
孫正義氏は、携帯業界で、3社でシェアが3分の1ずつになったので、これ以上の投資にうまみを感じていないとして、場合によってはソフトバンクモバイルの株を売って新しいスタートアップに投資するということを考えているのでしょう。
そんな業界地図の中に、4社目として楽天が参入してきたのです。
2016年3月時点の総務省調べによる各社契約数の割合は以下の通りです。
・NTTTドコモ:37.9%
・KDDI:27.4%
・ソフトバンク:23.1%
・MVNO:11.6%
合計:1.8億件
楽天・三木谷社長の「携帯業界のアポロ計画」とは?
新規参入事業者としての技術優位を生かし、高速・大容量、低遅延のサービスを圧倒的な安さで提供して大手3社の寡占市場に風穴を開ける。
他社は真似できない料金体系……三木谷社長は「携帯業界のアポロ計画」と称し、「ネットワークに革命を起こす」と豪語していました。
すでに3社寡占状態になっている市場に新規参入するには、圧倒的な価格の安さで勝負しないと太刀打ちできないでしょう。
料金プランについては最低利用期間や違約金などの縛りがないプランになるようです。いまある「2年縛り」は採用しません。
クラウドを使った「仮想化」と呼ぶ新技術を世界で初めて通信ネットワークに全面採用します。低コスト運営を目指し、約6,000億円を投じてクラウド上にネットワークを構築する独自開発の通信網を整備します。
自社網でのサービスは当初、一部に限定。ほか地域ではKDDIからローミング接続を受けます。
Next: 三木谷社長の誤算とは?サービス開始は半年延期の2020年春
本格開始が半年ずれる間は無料提供
楽天の携帯電話事業のサービスの本格開始が10月から2020年春にずれ込む見通しとなり、10月開始予定の携帯電話事業について、当初は試験サービスとして、利用者を5,000人に絞って無料提供することを正式表明しました。
通信基地局の整備の遅れなどが要因とみられています。ネットワークの安定稼働を2020年3月末までに確認できた後、本格的に商用化する予定です。
楽天の誤算はまさに基地局整備が思うように進まなかったことです。
総務省には来年3月末までに3,432局を整備する計画を提出して電波の割り当てを受けましたが、用地交渉の難航や天候不順による工事のずれ込みなどの影響で、8月中旬時点での進捗はその約5分の1となっています。
8月末には総務省から遅れを理由に3回目の行政指導を受けていました。
当初の予定通り、東京23区、名古屋市などで10月からサービスを開始、楽天が自社でネットワークを展開する東京23区、名古屋市、大阪市、神戸市に在住する、18歳以上の希望者を集い、20年3月末まで音声通話やデータ通信をすべて無料で提供、募集は10月1日から7日まで、11日から順次、案内メールを送るということです。
競合他社も「楽天モバイルの参入を警戒した戦略をとっている」としています。
楽天は通販や金融、旅行業などさまざまなインターネットサービスの土台となる通信網を自前で手がければ、利用者にこれまで以上にグループ内の複数サービスの利用を促せると踏んでの、携帯事業参入なのでしょう。
いわゆる「楽天経済圏」の構築です。それゆえ、自前のネットワークでの事業展開を求めていたのだと思います。
Next: 楽天に追い風?ソフトバンク「違約金ゼロ宣言」で顧客争奪戦は起こるのか
ソフトバンク「違約金ゼロ宣言」
10月から2年契約の途中で解約する際の違約金の上限が1,000円となる新ルールが導入されます。
ソフトバンクは「1,000円だったら違約金『なし』にしたほうがいいんじゃね」というノリなのでしょうかね。
今後ソフトバンクは携帯電話の契約で、2年利用を条件とする「2年縛り」を9月中旬から廃止すると発表しました。新規参入する楽天も2年縛りを採用しない方向です。
格安ブランドの「ワイモバイル」で9月下旬以降の新規契約から2年縛りを廃止し、途中解約時の違約金もなくします。
2年縛りの廃止に伴う通信料金の値上げもしない見込みで、携帯大手3社では初となるようです。
利用者は1カ月単位で契約乗り換えを検討しやすくなるよう、顧客囲い込みに使われた2年縛りの廃止で、顧客争奪戦が激しくなりそうだとのことです。
現行のプランでは顧客の囲い込みができなくなると判断し、他社にも同様の動きが広がる可能性があるとされています。
現在は、契約から2年後の契約更新月と前後1カ月のうちに解約しないと9,500円の違約金がかかる仕組みとなっています。
期間拘束をせず違約金も取らないシンプルな料金体系に一本化することで、顧客を呼び込みたいというのが、これからの各社の動きになりそうです。
消費者にとって本当にお得なのか?
総務省は、
・通信料金と端末代金を分離する
・通信サービスの継続利用を条件とする端末割引を禁止する
という方針を出していました。
これにより、
・通信契約の継続利用を条件としない端末割引を20,000円までにする
ことになっています。
これって私たちにとってはお得なのでしょうかね?
Next: 各社の囲い込み合戦が終わったとき、携帯業界はどう動くのか?
楽天「携帯電話の民主化」は成功するか?
「できるだけシンプルにしていくが、我々で囲い込むつもりはない。言い方は悪いかもしれませんが、『携帯電話の民主化』という方針でやっていきたい」……通信料に対しての三木谷浩史氏の言葉です。
料金のシンプル化に「民主化」という言葉をかぶせ、顧客の囲い込みへのアンチテーゼとして「民主化」をうたったのでしょうか。
寡占モデルの論理で行けば、シェア25%獲得までは、楽天は価格競争を仕掛けてくるのでしょう。
その先をどうするのか。楽天経済圏構築に向けての次の一手は何なのか。
楽天携帯事業参入の今後を、それに対する孫正義氏の動向を、注目したいですね。
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『らぽーる・マガジン』(2019年9月9日号)より一部抜粋
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