景気悪化の足音は確実に迫り、相場の見通しには暗雲が立ち込めています。このようなときにこそ、投資家の真価が問われます。長期バリュー投資家はこの荒波をどう乗り越えたら良いのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
日経平均の下値めどは? 年2〜3回の急落を意識した資金投入を
中国企業は守りの姿勢に入った
今週月曜は日経平均株価が650円安と大きく下がる展開で始まりました。昨年末の大幅下落から順調に戻ってきたかに見えましたが、相場はそう簡単にはいかないようです。
日経平均株価 日足(SBI証券提供)
相場の見通しは決して明るくありません。米中貿易戦争に端を発する景気後退はもう目の前に迫っています。世界第2位の経済大国が風邪をひけば、世界経済もただでは済みません。
単に米中貿易戦争が解決すれば良いという問題ではありません。現在問題は棚上げ状態となっていますが、この状態こそが刻々と中国の景気を悪化させています。
なぜか。それは、中国に工場を持つ企業経営者の立場に立てばわかります。
中国では、iPhoneをはじめとする様々な工業製品を製造・輸出しています。工場の建設や製品の製造には多額の投資・コストがかかります。そして、最大の輸出相手国は米国です。
リスクを取って生産しようとするところ、それを買う側のアメリカが関税をいつ上げるかわからないとしましょう。経営者は投資を決断するでしょうか。
普通の感覚なら、状況が確かになるまで様子を見るでしょう。無茶な投資に踏み切れば、倒産の可能性もあります。それよりも、しばらくは投資を控えて守りの姿勢に入るでしょう。
冷や汗を拭う李克強、仏頂面の習近平
中国での設備投資は如実に鈍っています。景況感を示す製造業購買担当者景気指数(PMI)は悪化を示す50を割り、3年ぶりの低水準となりました。3年前と言えば、チャイナ・ショックのが起きた頃です。
出典:Yahoo!ファイナンス
3年前は、政府が本腰を入れて景気対策を行ったことで持ち直し、その後の株価上昇に繋がりました。しかし、今回ばかりは政府も米国の顔色をうかがわないといけないため、大胆な策を打てないでいます。
国内的にも、国営企業や地方政府の債務膨張が重荷となっており、下手な金融緩和は不動産バブルの崩壊を引き起こす可能性があります。
3月15日に終了した全国人民代表大会(全人代)でも、景気刺激策は減税と規制緩和といった小規模なものにとどまりました。李克強首相も汗を拭う場面が目立ち、習近平国家主席は終始仏頂面でした。
米中貿易戦争は簡単には終結しないでしょう。「中国たたき」はトランプ大統領が国民の支持を取り付けるのに手っ取り早く、結論を急ぐ必要はありません。中国もメンツを潰されるわけにはいかず、仮に政権が変わったとしてもすぐには解決しそうにない問題です。
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「尋常ではない変化」カリスマ経営者が語った真意とは?
中国の景気悪化は、対岸の火事ではありません。日本、そして世界に大きな影響を与えます。
それをわかりやすく表しているのが、日本電産の永守会長の記者会見です。ぜひリンク先の動画をご覧ください。緊迫した状況が伝わってきます。
※参考:「尋常ではない変化が起きた」 日本電産の永守会長 – 日本経済新聞
日本の製造業の多くも、大半は中国の工場で生産を行っているか、中国の工場に設備や部品を売っています。つまり、中国での設備投資や生産が鈍れば、日本企業もただでは済まないわけです。
戦後最長と言われた景気拡大にもほころびが見えており、内閣府も景気判断を下方修正しています。楽観できる材料は見当たりません。
FRBの利上げ凍結が意味するところ
極めつけは、米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利引き上げの凍結です。
中央銀行は景気が良いときには金利を引き上げ、悪いときには金利を引き下げます。そうすることで経済を安定化させているのです。
好景気を背景に、2016年後半から順調に金利を引き上げてきましたが、3月21日には2019年中の利上げ凍結を示唆しました。これは、世界景気後退の兆候を捉えていると思われます。それだけ、景気悪化は目の前に迫っているのです。
なお、FRBはリーマン・ショック1年前の2007年9月に利下げに舵を切りました。後から見るとかなり的確なタイミングであったことを考えると、重要な兆候として見なければならないでしょう。
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PBR0.9倍となる日経平均17,000〜18,000円が下値目処
これだけ景気悪化の兆候が見えている中では、相場に楽観的な見通しを示すことは難しいでしょう。今週月曜のような急落を何回も繰り返しながら、じわじわと下がる展開が続くと考えます。
そうなると問題は、どこまで下がるのかと言うことです。リーマン・ショックでは、2007年のピークである18,000円台から2008年には7,000円台にまで値下がりしました。この恐怖を覚えている人も少なくないでしょう。
ただし、今回はその時とは様相が違うと考えます。下支えとなるのはPBRの水準です。
PBRは個別企業での有効性は高くありませんが、相場全体を図る指標としては使い勝手が良いものです。なぜなら、リーマン・ショック時を含め、日経平均のPBRは0.9倍を割り込んだことはほとんどないからです。つまり、この辺りが日経平均株価の下限と見ることができます。
出典:日経平均株価 AI予想
日経平均株価のPBRが0.9倍になったとすると、17,000〜18,000円程度です。つまり、下がったとしてもこの辺りが下限になると見ています。半値以下のような事態は起こりにくいと言えるでしょう。
年2〜3回の急落を意識して資金を投入すべし
長期投資であるバリュー株投資家の基本的な姿勢は、相場の下げを待つことです。しかし、必ずしも下限まで下がるとは限りません。そこまで待っていて結局下がらなかった場合は、投資機会を逸してしまいます。どこかのタイミングで投資しなければ、果実は得られないのです。
そこで、私が推奨するのは、大きく下げたタイミングで少しずつ資金を投入することです。例えば、先週末のニューヨーク市場は大きく値下がりし、週明けの日本株は下がることが容易に予想できましたから、買うための心構えを整えます。
場中に取引する時間がない人は、事前に注文を入れておくと良いでしょう。直前の終値からいくらか安いところに指値を入れておけば、無理なく安い価格で買っていくことができます。思ったより下がらずに買えなかったとしても、それはそれで仕方がありません。
長期投資で大切なのは、1回の下げで資金を使い果たしてしまわないことです。なぜなら、そこからさらに下がる可能性は大いにあるからです。
出典:株探
おおよそ年に2〜3回は急落が訪れますから、年間予算を設定し、2〜3回の急落を意識して資金を配分すると良いでしょう。
Next: 着実に成長する銘柄を安く買い、熟成を待つ
着実に成長する銘柄を安く買い、熟成を待つ
最後の問題は、どのような銘柄を買うかということです。
長期投資で大切なのは、目の前の動きではなく、数年後の将来をイメージすることです。数年後も着実に成長できる力があり、かつ現時点での株価が高くないものを選びます。難しいものを選ぶ必要はなく、皆さんがよく知っているもので構いません。
なぜそう言えるのか。それは、時間を味方につけられるからです。例え急成長しなくとも、他の追随を許さない優良銘柄を安く買うことで、10年も経てばかなりのリターンを得ることができます。
年5%の利益成長を遂げる銘柄がPER10倍で買えたとしましょう。決して大きな成長ではありませんが、順調に行けば10年で利益は1.6倍になります。
現在はPER10倍ですが、相場の風向きが良くなればPER20倍になることも珍しくありません。利益が1.6倍、PERが2倍になれば、株価は3.2倍に上昇します。10年で3.2倍ですから、年率リターンは12%を超えます。
つまり、長期投資家がすべきことは、相場の風向きが良くないときに着々と仕込み、相場要因で株価が上がるのを待ち、時が来たときにしたたかに売れば良いのです。
このような投資ができれば、市場平均リターンである7%を上回ることは決して難しくないでしょう。複数の銘柄に投資すればリスクを分散することもでき、単純なインデックスよりも強靭なポートフォリオを形成できるはずです。
以下に、直近3年間の営業利益成長率が年率5%以上で、PERが10倍前後の銘柄の一部を挙げます。皆さんがご存知の銘柄も多く含まれているのではないでしょうか。
- 2379 ディップ(PER11.9倍)
- 3107 ダイワボウHD(10.6倍)
- 4063 信越化学工業(13.3倍)
- 7269 スズキ(10.6倍)
- 7984 コクヨ(13.5倍)
- 9022 JR東海(12.3倍)
- 9432 日本電信電話(10.6倍)
- 9433 KDDI(9.4倍)
あとは相場が崩れ、多くの人が恐怖に怯える中でしたたかに買いを入れる。長期投資とはたったそれだけの作業です。
ポイントまとめ
・中国を発端とする世界景気後退は待ったなし
・日経平均株価の下値の目処は17,000〜18,000円
・長期投資には好機。年2〜3回訪れる急落を着々と拾うべし
【筆者よりお知らせ】4月6日(土)より、有料メールマガジン『今週のバリュー株投資』を配信します。毎週土曜に、相場状況の解説やバリュー投資家が取るべき行動指針を示します。これを読むだけで、忙しい方でも長期投資の基礎を身に着けられます。初月無料、翌月以降月額980円(税別)です。この機会にぜひご登録ください。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年3月28日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。