キヤノンもニコンも大きく利益を減少させた。素人はすでに「脱カメラ」化して、スマホで今まで以上に写真を撮っている。インターネットやスマートフォンの躍進は、今までの歴史ある日本企業の多くを時代遅れに追い込み、駆逐する危険な「産業破壊の道具」になっている。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
産業衰退は既定路線?外国企業にやられるまで改革できぬ日本企業
キヤノンもニコンも苦戦中
キヤノンやニコンは日本を代表するカメラメーカーである。その技術力は定評があり、世界中のどんなフォトグラファーもこの2社を外しては絶対に業界で生きていくことはできないほどだ。
カメラは精密でなければならず、堅牢でなければならない。レンズが1ミリでもズレていれば撮れる写真はまったく意味がなくなる。キヤノンやニコンは精密さと堅牢さを極めて、プロに選ばれるカメラを量産し続けている。
しかし、この世界に比類なきこの企業の決算は芳しくない。2019年7月24日。カメラ最大手であるキヤノンは通期業績の下方修正を余儀なくされている。黒字は確保しているのだが、連結営業利益は前期比4割減である。
一方のニコンもまた厳しいことになっている。純利益が前年同期比5割減だ。
どちらも高級機はそれなりに売れているのだが、それでもかつてほどの勢いはまったくなく、市場がどんどん縮小していく中で窮地に落ちている。
ただ、今回の決算の悪化は中国経済の減速という局面もあるので、一概にカメラ業界だけの問題ではないのだが、それを差し引いてもカメラ業界が全体的に縮小していく流れにあるのは間違いない。
コンデジの出荷台数「10分の1」まで縮小
コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)が売れていない。
カシオはコンデジから完全撤退してしまったが、その理由は歴然としている。コンデジ市場のピークは2008年だったが、この年を境にして市場はどんどん縮小してしまったのである。
2016年にはすでにコンデジの出荷台数は10分の1にまで縮小してしまっているが、ここまでくると「縮小」というよりも「消滅」に向かっていると言った方がいいのではないかと思うほどだ。
ひとつの市場が10分の1にまで縮小するというのは、その業界が見捨てられてしまったことを意味している。
人々は写真を撮らなくなったわけではない。逆だ。現代ほど大量に写真が撮られる時代はない。にも関わらずカメラ業界が苦境に喘いでいる。
カメラ業界を破壊してしまったのは何か。言うまでもなく、スマートフォンである。
人々はスマートフォンで写真を撮るようになり、一眼レフもコンデジも使わなくなってしまった。この流れはもう覆らない。
Next: スマホで十分どころか優れている。写真家以外は皆「脱カメラ」化へ
写真家以外はすでに「脱カメラ」化した
一眼レフやコンデジが映し出す絵とスマートフォンが映し出す絵を比べると、圧倒的に一眼レフやコンデジの方が美しい。スマートフォンは日々進歩しているのだが、まだまだ専用のカメラに追いつくところにまで至っていない。
では、ニコンやキヤノンは、事業として安泰なのか。
答えは「ノー」だ。スマートフォンの進化は、いずれは一眼レフやコンデジに追いつく日が必ずやって来る。
プロの目から見ると差が明瞭であったとしても、素人の目からすると違いが分からないほど進化する。
アップルが2007年にアイフォーン(iPhone)を発売して、以後スマートフォンが主力になると、カメラの性能はどんどん向上するようになっていった。最初のアイフォーンの画素数は200万画素だったが、今や1,200万画素に到達し、その品質は一世代前とは比べものにならないものになっている。
今後も新型アイフォーンが次々と発売されるが、新しい機種が出るたびにカメラの性能は飛躍的な品質になっている。
最近のアイフォーンは背景をボケさせる一眼レフ特有の機能をソフトウェアで搭載するようになっている。ボケの深度さえも「後で選べる」ほどだ。まだこうした機能は荒削りなのだが、いずれは洗練されて光学レンズが生み出すボケと遜色がないものになる。
これらの技術はアンドロイドにも取り入れられている。そして、低価格機種にもブレイクダウンされて「被写体だけを鮮明にして背景をぼかすのは当たり前」になる。
そうなると、もう素人は重くて設定も取り扱いも面倒な一眼レフを買うことはなくなってしまう。
「もうスマートフォンのカメラで十分だ」と大勢の人が思っているから、コンデジ市場は崩壊していったのだ。
素人はすでに「脱カメラ」化を成し遂げている。
Next: 「一眼レフでしかできない」が消えていく。新型「iPhone11」の実力とは
ソフトウェアや人工知能で驚異の品質に
「スマートフォンのカメラは口径が小さいので、光源の弱い夜はノイズだらけになり、この欠点は絶対に克服できない」と巷で言われていた。
しかし、もうそれも過去の話になりつつある。グーグルが「Pixel 3」で見せた夜景モード(Night Sight)の技術は衝撃だった。グーグルはレンズの力ではなく、ソフトウェアの力で小さなレンズでも夜が鮮明に写せる技術を実用化させた。それは想像を超える品質だったのだ。
確かにレンズのみで克服できないのだが、それをソフトウェアで処理することによってコンデジ並みのクオリティにすることができるようになる。しかも、手ぶれ補正までソフトウェアで成し遂げている。
一方のアップルも、2019年9月10日の「アイフォーン11」の発表で、グーグルと同じく夜景モードを取り入れて、「Pixel 3」に追いつき、追い越していった。
アップルは、9枚の写真を合成して高解像度の写真を生成する「Deep Fusion」という機能も追加するので、写真の質はより劇的に向上していくことになる。
「一眼レフやコンデジではないとできない」ことが、どんどん消えている。
最も美しい写真に仕上げるために人工知能が駆使されているのだが、この人工知能が進化すればするほど写真は恐るべき品質に高まっていく。つまり、今後はスマートフォンがソフトウェアや人工知能で、もはや一眼レフを超えるような「驚異の品質」を作り出す時代がやってくる。
一眼レフやコンデジが盛り返すことは絶対にない
恐ろしいことに、この動きは始まったばかりである。スマートフォンの写真の品質は、これが限界ではないのだ。これからさらに飛躍していく。
これは何を意味しているのか。
それは一眼レフやコンデジはどこかの時点で「過去の遺物」になってしまうということだ。一眼レフやコンデジはプロフェッショナルの人々が使用する製品として完全に消滅することはないが、市場は限りなく狭い。
一眼レフの名門であるキヤノンやニコンはドラマチックな事業転換ができないのであれば、スマートフォンによって淘汰されてしまうことになる。
この10年で時代は完全に変わってしまい、一眼レフやコンデジが盛り返すことは絶対にない。
Next: 経済衰退は既定路線? 外国企業にやられるまで改革できない日本企業
外国企業にやられるまで改革できない日本企業
すでにフェイスブック・インスタグラム・ツイッターのようなSNSも、大半はアイフォーンをはじめとしたスマートフォンで撮られた写真で占められるようになっている。
報道の現場でさえもスマートフォンが使われている。アイフォーンのみで作られた映画さえある。
パラダイムシフトがやってきている。にも関わらず、日本企業や日本の社会はあまりにも動きが鈍すぎるように見える。
これはカメラ業界に限って言えることではない。全般的にそうだ。
たとえば、すっかり時代に取り残された業界として目も当てられないのが出版業界なのだが、この業界では未だにファクスでのやり取りがなされていて呆気に取られたことがあった。
すでにインターネットがこれだけ社会に浸透したのだから、日本の社会からファクスは駆逐されていなければならないし、はっきり言ってコピー機を使うこと自体も時代遅れと言っても過言ではない。
同じことが不動産業界にも言える。契約にいったいどれだけ契約者に住所を書かせ、ハンコを押させれば気が済むのか。
この旧態依然とした不動産業界に風穴を開けようとしているのがインド発の企業「オヨ・ルームズ」だが、外国の企業にやられるまで何も改革できないのが日本企業なのだ。
「産業破壊の道具」としてのインターネット
インターネットやスマートフォンの躍進は、今までの歴史ある日本企業の多くを時代遅れに追い込み、駆逐する危険な「産業破壊の道具」になっている。
インターネットは、自分に最適化されない企業をことごとく破壊して回っている。
日本の銀行も、日本人が「私は現金を使います」みたいな時代遅れの高齢者の声ばかり聞いて、結局は時代の波に取り残されて屋台骨が揺らぐところにまで到達した。
これからすぐに「5G」の時代がやってくるが、そうなるとインターネットによって駆逐されるオールド産業は目白押しになる。インターネットに溶け込めなかった日本企業は次々と駆逐される。
現状維持でモノを考える日本企業や日本人が生き残れるのか心配だ。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年9月13日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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