米国が「日本には、思いやり予算を年間80億ドル支払うよう求めていく、と伝えた」との報道が出ています。この金額は現状の予算の約4.5倍に相当します。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年12月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
2019年度の思いやり予算は1,974億円、これが一気に4倍以上に?
思いやり予算「年間8,640億円」へ
「日本には、“思いやり予算”を年間80億ドル(約8,640億円)支払うよう求めていく…」。米・ボルトン大統領補佐官(当時)が今年7月に来日した際、日本側にそう伝えたと、米国外交誌「フォーリン・ポリシー」が報じました。
河野外務大臣は、このことを否定しています。
韓国側にもトランプ大統領は、在韓米駐留経費を5倍に引き上げるよう要求しているとも伝えられています。
在日米基地数は全国で121か所、そこに約5万5,000人の米軍兵士が駐留しています。
米国から現在の5倍もの米軍駐留に関する負担金を求められた韓国には、83カ所に約2万8500人の駐留兵士がいます。韓国の現在の負担金は約956億円ですから、これの5倍以上となると5,400億円もの負担金を要求されています。
米国が日本に求めている年間80億ドルという数字は、現状の“思いやり予算”の約4.5倍に相当します。
国防費負担にこだわるトランプ大統領
トランプ大統領は、EU諸国には、北大西洋条約機構(NATO)拠出金の大幅削減を求めています。
2%…これはNATO加盟国が自らの国防費を対GDP2%まで引き上げる目標値となっていますが、加盟国29か国中、カナダを含む20か国が未達成となっています。
これにトランプ大統領は不満をあらわにしているのです。
そもそも「2%」という対GDP比は、NATOへの費用負担を米国一国に依存しないための取り決めなだけに、トランプ大統領としては、これを守らない国に対しては怒りがこみ上げているのでしょう。
先週、英国で行われたNATO首脳会談では、トランプ大統領は、NATO費用負担を対GNP2%を守っている国の首脳だけを集めて昼食会を開きました。カナダなどの2%未達成国の首脳は呼ばないという、露骨な態度をとりました。
米国には他国に使うお金はない
世界の安全保障に対する、日韓欧への「お金」の要求…。
要は、米国には「お金」がないのです。トランプ外交のすべてはこのことにあります。
トランプ大統領は実業家でリアリストです。
米国という国家の収支をどう切り盛りするかを課題としていて、米国のためにならないことには一切お金を出さないという姿勢をとったのです。
それが「アメリカ・ファースト」です。
Next: アメリカのためだけに動くトランプ、日本は自助努力が必要に?
アメリカのためだけに動くトランプ
「アメリカ・ファースト」を解読すれば「アメリカのためになることだけをしなさい。アメリカのためにならないことは一切やりません」ということ。
この「アメリカのため」とは、アメリカの利益、それは目に見える「お金」、経済的利益を意味していると思われます。
おそらくトランプ大統領の強力な支持団体の意向でもあるのでしょうが、そのことに徹するからこそ、行動が極端にも映り、過去の常識では計り知れないものになっているのでしょう。
米国にとってお金にならないことはやらない、米国が儲からないことにはお金を投じないという、まさにビジネス感覚での話です。
世界の警察という地位を捨てたのもその一環で、米国にとっては経済的には、何の徳にもならないのでしょう。
TPP協議からの離脱もそうで、多国間協議よりも二国間協議(FTA)の方が米国にとって有利だからで、地球温暖化にも非積極的なのは、自国産業にとってマイナスで儲からないからで、とにかく、米国にとって経済的利益があることしかやらないという姿勢を貫いているようです。
“思いやり予算”とは…
日本の安全保障の代わりとして、米軍駐留費用は日本が負担しています。
それは、在日米軍駐留経費のうち、人件費や訓練移転費などの一部を日本が負担しているのです。
1978年(昭和53年)6月、金丸信防衛庁長官(当時)が、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部(62億円)を日本側が負担すると決めたことから始まりました。
“思いやり予算”とは、「在日米軍駐留経費負担」の通称です。
「思いやり予算」が登場した背景には、対米貿易黒字(米国から見れば赤字)があるとされています。
1978年は円高が進み、米国財政赤字も深刻で、日本が経済規模に対して軍事面の負担をしないことに不満を持ったアメリカ合衆国の負担への特別措置を要請された金丸防衛庁長官が、「思いやりの立場で対処すべき」などと導入したことから、日本共産党が“思いやり予算”と呼んだのが、今でも使われるようになりました。
ことばの表現から、ポジティブな印象はないですよね。
「日本が自主的な努力として負担を始めた」というのが“思いやり予算”となっています。
思いやり予算の内訳は、
・在日米軍基地職員の労務費(日本人従業員の給与等)
・基地内の光熱費や水道費
・騒音対策の転地訓練費
・施設建設費(基地内の住宅整備費用等)
となっています。
「基地用地の借上げ費用」に関しては、日米地位協定で日本側の負担義務が明記されている一方、「米軍基地内の住宅経費や光熱費など」については、どちらが負担するか特に決まっていないのですが、それこそ「思いやり」で、日本側が負担しています。
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日本の負担は思いやり予算「以外」にもある
今年度の“思いやり予算”は1,974億円です。この額から米国側の8,000億円強の要求がどのようなものかがわかると思います。
“思いやり予算”以外の分も合わせて、日本は3,888億円も、在軍駐留費を負担しているのです。
“思いやり予算”以外として
・基地周辺対策費・施設の借料など
・沖縄に関する特別行動委員会(SACO)関係費
・米軍再編関係費
・提供普通財産上試算(土地の賃料)
・基地交付金
があります。
現在の日本負担率は、米軍駐留経費の75%を負担しています。
米議会調査局によれば、日本は、第二次大戦後の米軍外国基地建設プロジェクトの中でもとりわけ大規模な3つに関して費用のかなりの部分を負担しています。
具体的には、
・沖縄県の普天間飛行場代替施設建設に121億ドル(費用の全額)
・山口県岩国の海兵隊航空基地建設に45億ドル(費用の94%)
・海兵隊員4,800人が沖縄から移転することになるグアムの施設に31億ドル(費用の36%)
となっています。
日本の自動車産業を守るために武器を買う?
日本の経済的負担は、米軍駐留経費だけではありません。日本は、防衛装備品の90%以上をアメリカ企業から購入しています。
ロッキード・マーティン社の最新鋭ステルス戦闘機F35やボーイング社のKC46空中給油機などです。イージス・アショア2機で約4,389億円、戦闘機F35を、約1兆2,600億円超で105機購入予定となっています。
日本が米国製兵器を大量に購入する背景には、日米通商交渉があり、日本の自動車産業を守るために武器を買っているという見方もあります。
10月に日米貿易協定が締結されましたが、日本が強く要望していた自動車関連の関税撤廃が先送り状態で、完全に撤廃されたわけではありません。
決して、日本政府が言う「ウィンウィン」の結果にはなっていないのです。
自動車と牛肉がバーターになっているように、自動車と武器がバーターになっているところがありそうです。
Next: 思いやり予算の内訳は? 増え続ける日本の負担
思いやり予算の内訳は?
日本政府の試算では、アメリカが自動車関連の関税を撤廃した場合、日本には2,128億円の“利益”が出るとのことです。
もし、自動車関税撤廃を米国側が承諾したとしたら、その返す刀で“思いやり予算”増額を迫るという交渉のような気がします。
「女性自身」2019年12月6日Web記事に、 思いやり予算の内訳(2019年予算、防衛省資料などによる)が掲載されていましたので、それをお借りしますと、以下のようになっています。
【提供施設整備】207億円:内訳=原子力空母が接岸できる係留施設(横須賀基地)/戦闘機の格納庫・滑走路・耐爆シェルター/航空機などの修理施設/プール、ゴルフ場整備費など。
【在日米軍労務費】270億円:内訳=福利厚生費など。
【在日米軍労務費】1,269億円:内訳=基地内従業員の基本給/劇場従業員の給与/夏季手当/寒冷地手当/時間外勤務給/消火手当/船長・機関長手当など。
【光熱水道費など】219億円
【訓練移転費】9億円:内訳=夜間離着陸訓練移転の費用。
【合計】1,974億円
「在日米軍労務費」「光熱水道費など」「訓練移転費」は、後から追加された項目のようですね。
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『らぽーる・マガジン』(2019年12月9日号)より一部抜粋
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