米新興企業の「ゲームストップ」というゲーム小売会社の株が、これといった大きな材料があるわけでもないのに2週間で10倍以上という急騰劇を演じました。個人投資家がヘッジファンドを打ち負かした事例です。この急騰劇からバブルの端緒が見えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
個人投資家がヘッジファンドを打ち負かした
アメリカ市場で面白い現象が起きています。
新興企業の「ゲームストップ」というゲーム小売会社の株が、これといった大きな材料があるわけでもないのに2週間で10倍以上という急騰劇を演じています。

GAMESTOP CORP A<GME> 日足(SBI証券提供)
この出来事の主役は、コロナ後に急激に増えた「ロビンフッダー」と呼ばれる個人投資家の存在です。
ロビンフッド(Robinhood)とは、株式取引が無料で行えるアプリのことで、コロナ禍で在宅時間が増える中で一気に米国の個人投資家に広まりました。そこではレバレッジを用いたオプション取引もでき、コロナ禍で株式市場が高騰する原動力の一つになったと言われています。
米国市場における個人投資家の売買比率を見ると、2020年に15%から20%程度に上昇していることがわかります。これを見るにつけても、彼らが市場の牽引役となってきたことは確かなようです。
力をつけた彼らは、やがて「レディット(reddit)」というSNSで情報を交換するようになります。日本で言うところの「5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)」のようなものです。
そこで彼らは、ゲームストップに目をつけました。この銘柄は、ヘッジファンドが空売りを仕掛けているという情報がありました。すると、レディットの先導役がゲームストップ株を「買うぞ」と呼びかけたのです。
空売りされている銘柄に対抗して買いを呼びかけることは、短期的な利益をもたらす可能性があります。もし、ロビンフッダーの買いがヘッジファンドの売りに勝ち、ヘッジファンドが買い戻しを迫られることになると、大量の買い戻しにより株価がさらに急騰するのです(これをショートスクイーズと言います)。
さらに、ロビンフッダーたちは、現物株だけでなくコール・オプション(買う権利)も買い進めました。オプションは、元手の資金の何倍もの取引を可能にします。また、オプションの売り手は株価が上がると損失を被ってしまいますから、オプションの売り手も株を買うことでヘッジを行わなければなりません。
ロビンフッダーは勢い付き、ついにヘッジファンドは空売りを諦め、多額の損失を出して撤退しました。これにより、直近でさらに急騰したというわけです。
同じようなことが、映画館チェーン大手AMCエンターテインメント・ホールディングス、企業向けソフトウエア開発のブラックベリーなどでも起きているとされます。