■決算動向
1. 2020年3月期上期決算の概要
サン電子<6736>の2020年3月期上期の業績は、売上高が前年同期比0.5%減の12,130百万円、営業損失が1,740百万円(前年同期は184百万円の損失)、経常損失が1,654百万円(同224百万円の損失)、親会社株主に帰属する四半期純損失が1,497百万円(同392百万円の利益)と微減収ながら大幅な営業損失を計上した。売上高は期初計画に対しても下回る進捗となり、損益についても費用の効率化などにより通常の事業損益では計画を上振れたものの、一時的な費用の発生により、下回る結果となった。
売上高は、DIが欧州等を中心に堅調に推移するとともに、エンターテインメント関連及び新規IT関連が伸長したものの、円高による影響やMLC売却によるマイナス分をカバーしきれずに、わずかに減収となった。また、売上高が計画を下回ったのは、DIにおける新製品「Analytics」販売の出遅れやエンターテインメント関連の台数の伸び悩み、新規IT関連の期ずれ等が理由である。
損益面では、プロダクトミックスの影響※により原価率が悪化したことに加え、Cellebriteによる第三者割当増資に関連する諸経費(約13億円)の計上が利益を大きく圧迫し、計画を大幅に下回る営業損失となった。もっとも、一時的な費用を除けば、計画を上回る状況となっており、その他の費用については効率化が図られている。
※MLC売却により、粗利益率の高いモバイルデータソリューション事業の構成比が低下したことで原価率が悪化した。
財政状態は、総資産が「現金及び預金」の増加などにより前期末比39.5%増の37,335百万円に拡大。なお、「現金及び預金」の増加はCellebriteの第三者割当増資によるものである。一方、自己資本についてもCellebriteの資本増強に伴って同60.2%増の13,807百万円に大きく拡大したことから、自己資本比率は37.0%(前期末は32.2%)に改善した。
2. 事業別の業績
(1) モバイルデータソリューション事業
売上高が前年同期比7.9%減の8,491百万円、セグメント損失が1,273百万円(前年同期は868百万円の利益)と減収及び大幅な営業損失となった。計画に対しても下回る進捗となっている。売上高は、DIが欧州等で好調に推移し、前年同期比で伸長したものの、円高※1やMLCの売却によるマイナス分をカバーできず、セグメント全体では減収となった。また、計画を下回ったのは、新製品「Analytics」販売の出遅れによるものである。損益面では、Cellebriteの増資関連費用(約13億円)※2が大きく影響したほか、将来に向けた研究開発費や固定費の増加等により、大幅な営業損失を計上した。
※1 海外子会社に係る項目(2019年6月末)の換算レートは1米ドル107.79円(前年同期は110.54円)。
※2 FA費用のほか、人材流出防止のためのインセンティブ(ボーナス等)によるもの。
(2) エンターテインメント関連事業
売上高が前年同期比19.3%増の2,784百万円、セグメント利益が242百万円(前年同期は88百万円の損失)と大幅な増収増益により黒字転換となった。ただ、計画比では未達となっている。前期に大きく落ちこんだ遊技機部品及びコンテンツの販売が一部回復したことにより増収となったが、計画に対しては台数の伸びが足りなかった。また、損益面では、増収による収益の押し上げに加え、費用の効率化にも取り組んだことから大幅な増益(黒字転換)を実現した。
(3) 新規IT関連事業
売上高が前年同期比55.0%増の698百万円、セグメント損失が206百万円(前年同期は480百万円の損失)と増収となり、損失幅も縮小した。ただ、計画比では期ずれの影響等により未達となっている。売上高の大部分を占めるM2Mは、自販機等向けが堅調に推移するとともに、費用の効率化により増収及び損失幅の縮小を実現。また、AR関連についても、「AceReal」の販売がまだ実証実験フェーズの採用にとどまっているものの、開発費の一巡等により損失幅は縮小。O2Oソリューションについては、テイクアウト予約決済アプリ「iToGoプラットフォーム」の伸びが緩やかにとどまったことから、損失も微減となった。
(4) その他
売上高は前年同期比19.4%減の156百万円、セグメント損失が41百万円(前年同期は87百万円の損失)と減収ながら損失幅は縮小した。売上高はゲームコンテンツの販売が低調に推移したが、費用の見直し等により損失幅は縮小した。
3. 2020年3月期上期の総括
以上から、2020年3月期上期を総括すれば、一時的な費用を除くと、売上高には若干出遅れ感があるものの、概ね計画どおりの進捗と評価しても良いであろう。特に、前期業績の足を引っ張ったエンターテインメント関連事業が、売上高の回復や費用の効率化などにより、しっかりと利益を出しているところは安心材料と言える。最大の注目点は、Cellebriteの第三者割当増資により約122億円の資金調達を実現したことである。世界各地で需要が伸びている成長分野への投資資金を確保したことは大きな成果と言えるが、今後はその活用と具体的な成果が大きなテーマとなるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
いま読まれてます
記事提供:
元記事を読む