Amazonは「高限界利益率」モデルで利益を稼ぐ
同じ赤字でもAmazonは株価が上昇しているし、利益も出始めているという反論もあるかもしれません。
しかし、Amazonの利益の大部分はクラウド事業によるものであり、小売部分はわずかな利益しか出せていません。また、かつては書籍やCDの直販が中心でしたが、今では半数以上が出店企業による売上であり、手数料ビジネスにシフトしています。
株価上昇は将来の利益に対する期待ですが、Amazonは先行投資(設備や広告)が利益を圧迫していて、これがなくなれば利益はいくらでも出せるという期待感があります。しかし、原価率が9割近いJDにはその余地はありません。
Amazonは今後の戦略として、プライム会員の増加など「限界利益率の高いモデル」にシフトしていくでしょう。配送を自前でやるという話もありますが、実際は現段階でコストに見合わず、その解は見出だせていないものと思われます。
財務状況は苦しい
赤字が続く以上、財務状況も確認しなければなりません。自己資本比率はかなりの勢いで下がり続けています。このままいくとタッチダウンも間近です。どんなに成長性がある企業でも、債務超過になってしまえば成長どころではありません。

【出典】Stockclip
いざとなったらバックに巨大企業テンセントがいるから大丈夫となるかも知れませんが、その時はいよいよ丸ごと吸収する時でしょう。そこから先の成長を待つまでもなく、買い叩かれて上場廃止という事態も十分に考えられます。
もしそこまでいかなかったとしても、利益率が低い状態は変わりありません。売上高だけが膨れ上がって、利益はほとんど出ないまま生き残る可能性は十分にあると思います。利益率の高いクラウド関連などは、テンセントとぶつかるので下手に進出することができないでしょう。
総括すると、客観的にビジネスモデルを見ると厳しいと言わざるを得ません。もちろん、株価も業績も何が起こるかはわかりませんが、慎重な投資家なら手を出すべきではない銘柄と考えます。
<分析のポイント>
- JD.com(JD、京東(ジンドン))は中国第2位のネット通販企業。テンセントの出資を受け、首位のアリババを猛追。
- 2014年の上場以降一度も黒字を出していない。原価率が9割近くに上る直販モデルでは、規模が拡大しても利益を増やすことは容易ではない。
- Amazonのような利益を伸ばす余地も見られず、財務状況は逼迫。慎重な投資家なら手を出すべきではない。
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2018年11月7日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。