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行き着く先は餓死か……「農業」が商業化することで揺らぐ日本の食料安全保障

「国民農業」から「商業農業」へシフトしたその先にあるものとは

現在の日本は、国家戦略として「国民農業」から「商業農業」へのシフトを進めている。例えば、農林水産省は農家の所得倍増の目標を掲げ、「六次産業化」を推進しているのだ。

ちなみに、日本を除く先進国のほとんどは、農家の所得の大半を「税金」から支払っている。食料安全保障を維持するためには、農家に農業を継続してもらわなければならない。農地が売却され、商業地や住宅地に転用されていくと、いざ、外国から農産物の輸入が停まり、国内で生産を再開しようとしてもどうにもならない。

食料安全保障確立のためには、農地が農地であること。さらには、農地で実際に農業を営む「人材」が存在していることが必要不可欠なのだ。人材たる農家に農業を続けてもらうためには、農家の所得の九割強が税金からの支払いでも構わない(欧州は実際にそうである)。それ以外に、食料安全保障を確保することはできない。と、ごく真っ当なことを考えているわけだ。

それに対し、農水省が推奨する「六次産業化」は、農家に対し「加工業や流通業、卸売業や小売業に載り出せ」と、ビジネスの拡大を求めているのである。現在の農林水産省は、国民農業や食料安全保障の意味を完全に見失ってしまっている。別に、農家の所得倍増を目指しても構わないが、方法は(欧米のように)税金からの支払いを増やす以外にはなく、間違っても商業農業化ではない。

あるいは、TPP推進論者は、「日本の農業は付加価値を高め、世界に打って出ればいい」と、無責任に主張する。まさに、国民の「食」を守る国民農業から、グローバルに「稼ぐ」商業農業へと転換するべきと主張しているわけだ。

イギリス支配下のインドでは商業農業転換で大飢饉が何度も発生

自民党のある衆議院議員は、テレビのTPP討論番組において、筆者に対し、「日本の農業は付加価値がある作物に特化すればいい」と、主張した。

まさに、農業が「国民農業」である意味を全く理解していない発言であり、政治家たる資格がない。
日本の農家のほとんどが「付加価値がある作物」に特化したとして、その後、我が国の食料輸入が途絶えたらどうなるのか。国民が飢え死にすることになる。

ちなみに、帝国主義時代のアジア・アフリカ諸国の多くは、農業が国民農業から商業農業へと転換させられてしまう。いわゆる、プランテーションだ。

欧米諸国が「植民地」で推進したプランテーションは、被支配地域の社会・環境を取り返しがつかない水準にまで破壊した。同時に、被支配地域では飢えが常態化してしまう。何しろ、住民(植民地は国家ではないため、「国民」ではなく「住民」と表現している)の胃袋を満たす国民農業の規模を強制的に縮小させられ、農地の大半がゴムやコーヒー豆、綿花、芥子等の商業農業の農地へと変わってしまったのだ。

ちなみに、最も悲惨な状況になった被支配地域はインドである。イギリス支配下のインドでは、農業がイギリス本国の工場で使われる綿花の生産に特化させられ、数百万人が餓死する大飢饉が何度も発生している。

帝国主義時代の植民地の住民たちは、欧米の軍事力により国民農業から商業農業への転換を強いられたのだ。それに対し、現在の日本は自ら率先して国民農業を捨て、商業農業へとシフトしようとしている。

日本の農業が商業農業へと特化していった場合、将来的に日本国民に待ち受けるのは「餓死」である。

週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.326より抜粋
※太字はマネーボイス編集部による

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