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異次元緩和の限界。そして欧米日中央銀行への「信任」は崩壊する

黒田日銀の狙いと苦悩~国債買い入れは早晩限界に

例えば、適格担保を外貨建て債券や住宅ローン担保証券にまで拡大したのは、金融機関が適格担保としての国債をある程度保有したいために、国債の買い上げが今後困難になる事態を想定したものです。

また、J-REITへの相場影響力を考えて日銀の占有率を5%までとしていましたが、この上限に到達してしまうので、10%に引き上げました。

また買い入れ国債の平均残存期間を7-10年から7-12年に拡大したのも、イールド・カーブなど国債市場の歪みを意識したものです。

そもそも、設備投資や人材投資に積極的な企業向けETFの3000億円購入も、来年4月から再開する日銀保有株式の売却を穴埋めするためのもので、市場をミスリードするものでした。

さらにまた、資金循環勘定によると、9月末での日銀保有国債は315兆円で、国債発行総額の30%を超えました。ECBの33%ルールを適用すると、日銀の国債買い入れは早晩限界に達します。これを無視して買い続ければ、国債市場への日銀の過剰な影響が問題になります。

傷ついた主要中央銀行の信任

今回の決定会合前に、日銀の様子が変で、何か追加策を準備している節が見えました。通貨マフィアの集まりであるG30で何か言われたか、選挙モードに入った官邸から株価押し上げのために追加策の要請があったか、何か変でした。

ところが、追加策を出すにあたって、FRBの利上げ後に株高、円安が生じ、日銀の出鼻をくじきました。

それで急遽「第2案」に切り替え、バズーカ追加緩和を温存したのか、はたまた追加緩和をしたくとも、技術的に限界に来ていたため、こうした補完策を提示せざるを得なかったのか、実態は不明ですが、少なくとも市場に異次元緩和の限界、副作用を意識させ、このままでは異次元緩和を続けることも困難ということを知らしめました

追加バズーカを温存したとの期待もありますが、今回の措置で日銀もECBもFRBも中央銀行としての信認を傷つける結果となり、早急にその回復を図らないと、無理して次の対応策を打ち出しても、市場がそっぽを向くリスクがあります。

かつてグリーンスパンFRB議長(当時)が、「中銀の信用を築くには何十年もかかるが、失うのは1日で十分」と言いました。

今回の一連の事件は、中央銀行に大きな試練をもたらすことになるかもしれません。

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マンさんの経済あらかると』(2015年12月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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