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中国で「無人タクシー」が日常風景へ。なぜ日本の自動運転技術は勝てない?=牧野武文

なぜ中国の自動運転は進んでいるのか?

中国の自動運転が進んだのは、もちろん人工知能などを含めた技術水準が上がったこともありますが、地方政府が積極的に試験区域を提供していることも大きく貢献しています。むしろ、北京、上海、長沙、重慶などでは、積極的に自動運転の試験エリアを開放し、「世界で初めて完全自動運転車が走る都市」にする競争を行っているほどです。

中国の都市が、自動運転に積極的になったのは、百度のロビン・リーが2017年に起こしたある事件が大きなきっかけになっています。

中国検索大手の百度は、2015年から自動運転の研究開発を進めてきました。その年の12月には、北京で試験走行を行い、翌2016年9月では、米国カリフォルニア州で試験走行を行なっています。

そして、2017年4月に、この開発計画を「アポロ計画」と名付け、自動運転に特化をした人工知能プラットフォームを開発し、オープン化することを宣言しました。どの企業であっても、得られた知見を共有する条件で、このアポロを無償で使うことができるというものです。

フォード、ダイムラーといった自動車関連企業、マイクロソフト、インテル、NVIDIAなどが参加表明をし、米国グーグル傘下のウェイモーとともに、百度は自動運転の中心的プレイヤーになりました。

自動運転車の未来を切り拓いた衝撃映像

そして、2017年7月5日、北京国家会議センターで開催された百度AI開発者会議で、衝撃的な映像が公開されたのです。
※参考:https://v.qq.com/x/page/y0522p47agn.html

その映像は、百度の自動運転車が、北京の第5環状線を、一般車両に混ざりながら走行するというものでした。ロビン・リーCEOが助手席に座り、百度の自動運転技術について説明をし、さらには運転手がハンドルに手を触れていない映像が映し出されました。

北京第5環状線は、北京市を取り巻く環状道路の内、外側に位置するもので、以前は高速道路でした。そのため、走行車両は多くなく、道路環境も整備されています。それでも、一般車両の中を走る自動運転車の姿は、当時は衝撃的で、会場にいたエンジニアたちは熱狂とも言える反応を示したのです。

ところが、映像を見た北京青年報の記者があることに気がつきました。ロビン・リーの乗った自動運転車が、車線変更禁止区間で車線変更を行なっていたのです。これは中国の道交法では200元の罰金と2点の減点となる違反です。

それだけではありません。自動運転車のナンバーは映像が不鮮明ではっきりとは読み取れないものの、江蘇ナンバーで末尾がEであることが読み取れます。北京市では、渋滞緩和と排ガス削減のために、平日の午前7時から午後8時まで、第五環状線以内の区域での走行を、曜日ごとにナンバーの末尾で制限をしていました。

映像が紹介される時に、ロビン・リーは「7月4日に撮影したもの」と紹介していましたが、この日は末尾が0と英文字ナンバーの車は走行ができない日でした。これも100元の罰金となります。

北京青年報の記者は、北京市の交通管理部門に問い合わせを行いました。すると、管理部門では、その事態をすでに把握済みで、捜査に入っているというのです。しかも、問題はそれだけではありませんでした。そもそも自動運転で走行すること自体が、現行法では違反となるというのです。百度は2015年から、第5環状線などで自動運転走行試験を行なっていると発表しているが、それが事実とすれば問題であり、関係部門と法解釈について協議を行なっていると回答したのです。

つまり、百度は交通管理部門と協議することなく、勝手に自動運転試験走行を行なっていたようなのです。

しかし、これが中国の自動運転を大きく推進するきっかけになりました。北京市の交通管理局と百度の協議が何度も行われ、交通違反問題については、ロビン・リーCEOが指示をして運転していたので、実質的な運転者に相当するとして、ロビン・リー個人が罰金を支払い、減点を受けることで決着しました。

それだけではありません。その年の12月には、北京市交通委員会が「北京市自動運転車両試験を促進するための指導意見」「北京市自動車両道路試験管理実施細則」の2つの文書を公開し、北京市内で自動運転のテスト走行が可能になったのです。

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