fbpx

なぜアリババ創業者ジャック・マーは高リスクな農村EC「タオバオ村」で中国の貧困を救おうとするのか=牧野武文

努力をしないタオバオ村は淘汰される

しかし、すべてのタオバオ村に薔薇色の未来があるわけではありません。ここが慈善事業ではなく、営利事業であることの厳しさです。売れるための努力をしないタオバオ村は淘汰されていくことになるのです。

成都市近郊のある村が2014年にタオバオ村になりました。この村では、大都市成都に近いため、以前から縫製加工工場が多い村でした。それを活かして、タオバオ村となり、タオバオでカジュアルウェアの販売を始めたところ、価格が安いと評判になり、村は潤いました。

しかし、アリババがタオバオ村の成功例として紹介をすると、様子が変わってきました。外部の人間が村内に縫製工場を作り、タオバオ村に入り込んできたのです。村の人口は2,000人ほどですが、700もの縫製工場ができ、70店以上ものタオバオ店舗が活動するようになりました。

ところが数年で、この村は寂れてしまうのです。製造上の工夫をすることもなく、商品も特に工夫をすることなく、ただ安いだけが取り柄のカジュアルウェアばかりが生産されるようになり、他のタオバオ村やタオバオ店舗との競争から価格競争が始まり、劣悪な品質の商品がこの村から出荷されるようになっていきました。

そうなると、消費者はすぐに反応します。カジュアルウェアなど、この村の製品を買わなくても、よそにたくさんあるのですから、少しでも品質がよく、安いものを求めます。外部から入り込んだ人たちは、儲けが出ないとなるとさっさと撤退をしていきます。

まだ400ほどの縫製工場が残っていますが、その多くがタオバオ経由ではなく、昔通り、卸を通じて、成都市の店舗に流通させるようになっています。忘れられたタオバオ村になってしまいました。

当たり前の話ですが、売れる努力をしないタオバオ村は淘汰されていきます。だからこそ、タオバオ村の人たちは、独自の特産品を探し、売れる努力をするようになるのです。

努力すれば貧困から抜け出せる社会へ

慈善事業は、美しい気持ちから発することですが、このような努力するモチベーションを生みづらいのが難点です。

努力をしなくても生きていけるのですから、人は努力をしなくなってしまいます。それでは、表面上貧困問題を解決できたように見えても、支援が止まったら瞬時に貧困状態に戻ることになってしまいます。

だからこそ、ジャック・マーは、課題を根本解決するために営利事業を通じて社会貢献をしているのです。それは、バングラデシュのグラミン銀行のマイクロファイナンスや、MITのニコラス・ネグロポンテ教授が始めたOLPC(One Laptop per Child=安価なノートPCを開発し、先進国の人間が2台セットで買うと、1台が自動的に開発途上国の子どもたちに配布される仕組み)などと共通した考え方のものです。

いずれも貧困を解決する支援事業ですが、経済原則に基づいた運営がされています。そのため、どのプロジェクトも困難の連続です。タオバオ村も、アリババ内部ではさまざまな困難に直面し、それを乗り越えてきたに違いありません。

このような事業に挑戦をしているからこそ、中国人にとってアリババは特別な企業であり、ジャック・マーは特別な人であり続けているのです。

続きはご購読ください。初月無料です

社会貢献を営利事業として企画するジャック・マーの才能

貧困農村を救うもう1つの営利事業「浙江網商銀行」

アリババ物語

中華IT最新事情

※これらの項目は有料メルマガ購読者限定コンテンツです →いますぐ初月無料購読!

【関連】Amazonや楽天も潰される?中国第2位のECに急浮上「拼多多」とは何者か=牧野武文

【関連】実は中国格安スマホが最先端?注目企業「OPPO」「VIVO」創業者を育てた段永平の才覚=牧野武文

【関連】いつ日本のスマホ決済は中国に追いつくのか?アリペイに学ぶ「爆発的普及」の条件=牧野武文

【関連】レナウン、コロナ倒産ではない? 中国企業との取引に潜むリスクと、破綻の真相=澤田聖陽

<初月無料購読ですぐ読める! 11月配信済みバックナンバー>

※2020年11月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2020年11月配信分
  • vol.044:貧困を撲滅するタオバオ村の成功例と失敗例(11/2)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2020年11月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込550円)。

2020年10月配信分
  • vol.043:スマートフォンサブブランド戦略はどのように機能をしているのか?(10/26)
  • vol.042:EC「京東」のライフサイクル手法。ビッグデータ解析によるマーケティング(10/19)
  • vol.041:休日消費に起きている変化。キーワードは即時配送、到家サービス、家族(10/12)
  • vol.040:進化が止まらないライブコマース。自動車、マンション、ザリガニまでも(10/5)

2020年10月のバックナンバーを購入する

2020年9月配信分
  • vol.039:すべての小売業は新小売になる。既存小売はどこまで新小売化を進めているか?(9/28)
  • vol.038:プラットフォーム化するショートムービー。そのビジネス構造(9/21)
  • vol.037:WeChatへの大転換を可能にしたテンセントと創業者のポニー・マー(9/14)
  • vol.036:デジタル界の無印良品になりたい。中国製造業を変えた小米(シャオミ)創業者「雷軍」(9/7)

2020年9月のバックナンバーを購入する

2020年8月配信分
  • vol.035:新中華圏が構築されつつある東南アジアITビジネス(8/31)
  • vol.034:中国の人工知能産業は、米国にどこまで迫っているのか(8/24)
  • vol.033:BATがBATである理由。トラフィック制御からの視点(8/17)
  • vol.032:ソーシャルEC。次世代ECなのか、それとも中国独特のECなのか(8/10)
  • vol.031:大量導入前夜になった中国の自動運転車(8/3)

2020年8月のバックナンバーを購入する

2020年7月配信分
  • vol.030:コロナ終息後、中国経済に起きている5つの変化(7/27)
  • vol.029:店舗、ECに続く第3の販売チャンネル「ライブEC」(7/20)
  • vol.028:MaaSにいちばん近い企業。滴滴出行の現在(7/13)
  • vol.027:中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?(7/6)

2020年7月のバックナンバーを購入する

2020年6月配信分
  • vol.026:中国インバウンド客はいつ頃戻ってくるか?(6/29)
  • vol.025:ポイント還元をむしゃぶりつくす羊毛党とその産業構造(6/22)
  • vol.24:ゲーム業界から注目される女性プレイヤー。「彼女ゲーム市場」とは何か(6/15)
  • vol.023:即時配送が変える小売業態。新小売と社区団購(6/8)
  • vol.022 OPPO、vivoを生んだ歩歩高とその創業者段永平(6/1)

2020年6月のバックナンバーを購入する

2020年5月配信分
  • vol.021 感染拡大で実戦投入された人工知能テクノロジーの数々(5/25)
  • vol.020 経済復活の鍵は「ライブEC」。感染拡大から広がる新たな販売手法(5/18)
  • vol.019 生き残りを賭ける飲食業。鍵は「外売」(デリバリー)(5/11)
  • vol.018 ニューノーマル。終息後の新日常は、以前とどう変わるのか?(5/4)

2020年5月のバックナンバーを購入する

2020年4月配信分
  • vol.017 アリババとテンセント。ECビジネスをめぐる衝突(4/27)
  • vol.016 敗走するアマゾン、カルフール。理由はグローバルとローカルの衝突(4/20)
  • vol.015 中高年にスマホ決済を浸透させた台湾庶民派スーパー「PX Mart」の取り組み(4/13)
  • vol.014 1日で4.1兆円売り上げる「独身の日」は、どのように生まれたのか?(4/6)

2020年4月のバックナンバーを購入する

2020年3月配信分
  • vol.013 1日で420億円の商品を売る。網紅の桁外れの販売力の仕組み(3/30)
  • vol.012 広告メディアとしてのTik Tok。その驚異のコンバージョンの秘密(3/23)
  • vol.011 人口ボーナス消失とZ世代。経済縮小が始まる(3/16)
  • vol.010 中国テック企業は、新型コロナとどう戦っているか(3/9)
  • vol.009 潜在顧客を掘り起こし、リピーターを育成するモバイルオーダー(3/2)

2020年3月のバックナンバーを購入する

2020年2月配信分
  • vol.008 新小売戦略の要となったフードデリバリー「外売」(2/24)
  • vol.007 ミニプログラム活用で新規顧客を獲得する店舗小売(2/17)
  • vol.006 中国のEVシフトは成功なのか。それとも失敗なのか?(2/10)
  • vol.005 第2位のECに浮上した拼多多とは何ものか?(2/3)

2020年2月のバックナンバーを購入する

2020年1月配信分
  • vol.004 ファーウェイと創業者、任正非(1/27)
  • vol.003 シェアリング自転車は投資バブルだったのか(1/20)
  • vol.002 アリペイとWeChatペイはなぜ普及をしたのか(1/13)
  • vol.001 生鮮ECの背後にある前置倉と店倉合一の発想(1/6)

2020年1月のバックナンバーを購入する

【関連】シャオミの「雷軍流」が中国を鍛え上げた。なぜ日本の家電は敗れた?=牧野武文

【関連】レジ袋有料化、経済危機に追い打ち。客にコストを押し付け、店の効率を阻害=斎藤満

【関連】「彼氏にしたい職業」上位はぜんぶ地雷、玉の輿に乗りたいなら○○な男を選べ=午堂登紀雄

image by:feelphoto / Shutterstock.com
1 2 3

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2020年11月2日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード

[月額550円(税込) 毎週 月曜日 発行予定]
急速に発展する中国のITについて、企業、人物、現象、テクノロジーなど、毎回1つのテーマを取り上げ、深掘りをして解説をします。

いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー