ガイアナ沖の巨大油田の存在
それは、ベネズエラとガイアナ、そしてブラジル沖にまたがって存在する「グアヤナ・エセキバ」にある油田地帯の存在である。
すでに1980年代の始めから、この地域に豊かな油田が存在する可能性が高いことは知られていた。このため、ベネズエラとガイアナの間にこの油田の領有権をめぐる争いが発生し、1983年の両国の協定によって一応の妥協が成立した。それは、領有権の争いが平和的に解決されるまで、今後12年間は掘削を凍結するという内容だった。
一方、この協定の有効期限が失効してしばらくたった2011年に、ガイアナ政府は同国の排他的経済水域を150マイルほど拡大する許可を国連に申請した。これは、ベネズエラと領有権を争っていた「グアヤナ・エセキバ」の油田地帯がある大陸棚を、ガイアナの排他的経済水域に組み込むための処置であった。そしてガイアナ政府は領有権の問題はすでに解決したと一方的に宣言し、国連の認可を待つことなく2015年に「グアヤナ・エセキバ」の油田地帯の試験的な掘削を行った。
興味深いことに掘削は、「中国海洋石油集団(CNOOC)」と契約した「エクソン・モービル」が行っている。ちなみに「中国海洋石油集団」は、ベネズエラの国営石油会社、「PDVSA」の最大の支援者のひとつでもある。
この掘削の結果は驚くべきものだった。推定埋蔵量は50億バーレルで、原油の品質も最高レベルのものであることが分かった。普通、試験的な掘削の成功率は35%程度だが、「グアヤナ・エセキバ」では85%と、掘削したほとんどの海域で原油の産出に成功した。もしガイアナが「グアヤナ・エセキバ」の油田地帯の領有権を獲得すると、同国は中南米で4番目の規模の産油国になる。これはガイアナのような小国の経済にとっては、革命的な転換になる。
もちろんガイアナ政府のこうした一方的な動きに対して、「グアヤナ・エセキバ」の油田地帯の領有権を主張しているベネズエラのマドゥロ政権は強く抗議した。この結果、2018年1月、問題の解決を付託された国連事務総長は、この件をハーグの「国際司法裁判所」の審議にゆだねることになった。
中国の「一帯一路」の中継地、ガイアナ
ところでガイアナだが、ここは中国の拡大する経済圏「一帯一路」に中継地として組み込まれたといってもよい国だ。中国は、ブラジル北部の州都、マナウスからガイアナに向かう高速道路、「ルンデンーレセム・ロードリンク(Linden-Lethem road link)」を整備した。この結果、ガイアナを経由するブラジルからパナマ運河への陸路が整備され、パナマ運河への直接のアクセスが可能になった。
そして2016年には、中国国営のランドブリッジ・グループ(嵐橋集団)が、パナマ最大の港であるマルガリータ島港の管理権を99年間にわたって租借するという契約に署名した。この港では、パナマ運河の大西洋側の物流が処理されている。ここが、中南米における「一帯一路」の一大物流拠点になる。また中国の国営企業各社は、パナマ運河周辺の約1200ヘクタールに及ぶ土地の開発にも目を向けている。
中国のこのような計画により、ガイアナ、ブラジル、パナマはガイアナを中継地として、中国の「一帯一路」経済圏に一体的に組み込まれつつある。