再帰性には「永久ループする特性」がある!
社会的事象には、自然現象と違って人間が参加しています。そのため、すべての社会的事象には「再帰性」が伴っていることをソロスは見抜きました。
「再帰性」とは文字通り、「再び帰ってくる性質」のことです。ソロスは、再帰性の特徴を次のように説明しました。「私は嘘つきだ」と宣言したとすると、哲学的には次のように解釈されます。
私は嘘つきだと言う人が嘘つきならば、本当のことを言ってるので正直者となるように思うが、正直者が私は嘘つきだと言うのは嘘つきなので嘘つきになるが……(文頭に戻る)
「自己言及のパラドックス」と呼ばれる現象で、この命題は永久にループします。世の中は、黒か白かを明確に判定できるものばかりではなく、このように永久ループに陥るものもあります。
なぜ永久ループになるかというと、定義している命題に「自己参照」が含まれるからです。自己参照するものは、いつまで経っても答えが出ずに永久ループとなります。
社会的事象は、人間がその社会の中に入っているため、「自己参照」になっていることをソロスは発見しました。「私は嘘つきだ」という命題のように、命題の中に自分自身を定義してしまうと「永久ループ」が生じますが、それと同じことが社会的事象にも生じるというのです。
人間の持つ2つの機能
まず、人間には次の2つの機能が備わっています。
- 認知機能……人間が世界を知識として理解しようする機能
- 操作機能……人間が世界に影響を与えようとし、改造しようとする機能
ソロスは、この2つの機能が相互に作用しあって永久ループするため、現実が歪められていることを見抜きました。次の2つの式をよく見てください。
- <認知機能の式>f(現実)⇒認識
- <操作機能の式>g(認識)⇒現実
人間は現実を認知して、現実とはこういうものなんだと認識します。その認識をもとに、操作(行動)を取って、新しい現実を生み出します。
ここで、注目すべきは、「操作機能によってアウトプットされた現実が、認知機能のインプットになっている」という点です。

【図解2】自然現象とは違って社会的事象には「再帰性」が存在する!
これは「私は嘘つきだ」の命題のように永久ループしています。
- f(嘘つき者)⇒正直者
- g(正直者)⇒嘘つき者
「私は嘘つきだ」と言うのが本当なら、私は正直者です。正直者が「私は嘘つきだ」と言うのなら、私は嘘つき者になります。答えのない永久ループになります。
「卵が先か?鶏が先か?」においても、同じように自己参照によるループになります。
- f(鶏)⇒卵
- g(卵)⇒鶏
世の中には白か黒かを判定できずに、ずっとループに陥る命題もあると、私たちは捉えなければいけません。
人間が参加する社会的事象では、認知機能と操作機能は相互に干渉しあってしまうために、永久にクルクルと回り始めてしまいます。自然現象には人間が参加していないため、このような再帰性は生じません。