ソフトバンクを知るキーワードその2「群戦略」
もう1つ、ソフトバンクを知るためのキーワードとして、“群戦略”という企業戦略を紹介します。
群戦略とは、「それぞれの技術分野で進化のNO.1を走る企業に、(できれば)筆頭株主として20~30%の株式を持ち、ソフトバンクと共に大きく成長していくという組織体のあり方」のことを指します。
わかりやすく言えば、将来大きくなるベンチャー企業の株式を先に買って、成長とともにソフトバンクも一緒に儲かる仕組みをつくる戦略のことです。早めに家族になっておくファミリー戦略と理解すればわかりやすいかもしれません。
ポイントは、これらの企業の株式を100%持たないこと。あくまで、筆頭株主として20~30%の株式を持つことで、支配・管理するのではなく、極めて柔軟なグループ経営を維持しているのです。ここが三菱や三井、住友などの財閥グループとの違いです。
この群戦略を理解すると、ソフトバンクグループが今後より投資会社として力を入れていくことが理解できると思います。
通信プラットフォーマーを目指して「LINE」を経営統合
ソフトバンクグループは、通信プラットフォーマーを制することを目指しています。
そのため必要なものは何でしょうか。それは、あらゆるコミュニケーションや生活の入口である「決済」を押さえること。その努力はソフトバンクの決済事業の歴史を見ても明らかです。
【ソフトバンクの直近の決済史】
2018年6月:PayPay設立。ソフトバンクとヤフー(現Zホールディングス)それぞれ50%の出資で設立。
2019年5月:ソフトバンクグループがPayPayへ追加出資。ソフトバンクグループが50%となりPayPayの筆頭株主となる
2019年4月:ヤフーは持株会社「Zホールディングス」を設立しその下にヤフーを置くと発表
2019年5月:ソフトバンクがヤフーを連結子会社化
2019年11月:ヤフーとLINEが経営統合しZホールディングスの傘下に入ると発表
たった2年だけでも激動なことがわかります。そんな「決済を制する者が通信プラットフォーマーを制する」という孫社長の考えは、中国でアリババとテンセントの決済覇権戦争を見て確信したものです。
中国市場の「ペイ」市場を見てみると、2015年ごろまでは、スマホ決済市場においてはアリババの「アリペイ」が先行していました。一方、中国のテンセントの決済アプリであるウィーチャットペイが登場したのは、アリペイから9年後のこと。
しかし、後発であったにもかかわらず、ウィーチャットペイはアリペイと肩を並べるまでに成長しました。この猛追の背景には、ウィーチャットペイが1日に何度も触るコミュニケーションアプリに連動していることが挙げられます。
一方、アリペイは商品を購入する時にだけ訪れるECサイトに紐づいています。当然、コミュニケーションアプリの方が使用する頻度が高く、後発であってもアリペイに迫る勢いがあったことは納得できるでしょう。
1日にLINEを開く時間と、Amazonを開く時間、どちらが多いかと言えば、どう考えてもLINEですよね。そこで、孫社長は日本のキャッシュレス市場のシェアを取るために、LINEに目をつけたのです。
それまで、日本のPayPayとLINE Payは競合関係にありました。そんな無駄な“ペイ戦争”の消耗戦をLINE買収によってなくすことで、スーパーアプリ経済圏をいち早く作り上げようとしているのです。