英国人にEU離脱を決意させた、ECBの恥知らずな「ドイツびいき」
ECBはドイツの事情を最優先した金融政策を行っている。その効果で、2007年以前には最も失業率の高かったドイツが、2009年以降は最も低くなった。
2005年時点で失業率が2桁台だったのはドイツだけだったが、10年後にはドイツだけが5%以下となった。逆効果となった残りの諸国はほとんどが2桁台。ギリシャやスペインは今も20%を超えている。
金融政策は、財政政策と並ぶ、経済政策の2本柱だ。景気後退時に、机上ではなく、実際に利上げするとどうなるか?ECBの実験は、私などには大いに勉強になったが、エコノミストでもこの事実に触れない人が多いのは驚きだ。
英国では約半数の人々がそのことを学び、EU政府に懐疑的となり、離脱を決めたのだ。
サブプライムショック後の金融引き締めと、リーマンショックで、ドイツ圏以外の欧州諸国の多くは危機に至った。この失業率の高さは、金融危機を超えた社会的危機だとも言える。
メルケル独首相だけが「生き残った」のは偶然にあらず
EU政府の優先順位がドイツだとすれば、下位政府にあたる各国政府は何をしていたか?何もしなかった訳ではない。多くは、経済政策のもう1つの手段、財政政策を行った。景気後退期には税収が減り、財政が悪化するのが常だが、その時に財政出動すれば、さらに財政は悪化する。

ユーロ圏主要国の財政収支
このグラフは、先の失業率のグラフ以上に、驚きではないだろうか?両ショック以前に黒字なのは2カ国だけ、アイルランドとスペインだ。PIIGSを「醜い子」と意訳するとすれば、その昔、両国は「白鳥」だったのだ。今は誰かに汚されて、醜く見えるだけなのだ。
一番大きく振れているアイルランドに注目して頂きたい。財政黒字国だったアイルランドが、一時はGDP比で32.3%の財政赤字となる。大幅な財政出動をして、景気対策を行ったからだ。
ちなみに、ユーロ政府は将来の統合に向けて、財政赤字の許容範囲をGDP比3%以内と定めている。アイルランド政府は随分と思い切った手を打ったものだ。結果的に、カウエン首相は解任され、後任のケニー首相がEU政府主導の緊縮財政を受け入れた。
同じように財政出動を行ったスペインはサパテロ首相からブレイ首相に、イタリアはプロディ首相からベルルスコーニ首相に、ポルトガルはソクラテス首相からコエーリョ首相に、ギリシャはパパンドレウ首相からパパデモス首相に交代、最後に残ったフランスのサルコジ大統領はオランド大統領に変わり、いずれも緊縮財政を受け入れた。
もっとも前任者も後任も、各国の国民自身が選んだのだが、今回のブレグジットのような、大々的なEU政府寄りのキャンペーンが行われた結果のことだ。当時から首長のままでいるのは、ドイツのメルケル首相だけなのは偶然ではない。